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赤字寸前のIBM、暗雲漂う名門はいま… “見せかけの実績”と批判の声も
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ITメーカーからコンピューター関連のサービス企業へのシフトを模索している米IBMが窮地に立たされている。10月20日に発表した2014年7~9月期決算は10四半期連続の減収。新興企業に15億ドルを払って不採算の半導体製造事業を引き取ってもらうという苦肉の策を講じた結果、最終利益は赤字転落寸前の状況となった。IBMは05年にパソコン事業を中国の聯想(レノボ)グループに売却するなど、大胆な経営改革が評価されてきた。しかし成長分野と位置づけるクラウドサービスなどでの競争では出遅れが指摘されており、先行きに暗雲が漂っている。
「もちろん今回の業績には失望している」。IBMのバージニア・ロメッティ最高経営責任者(CEO)は決算発表をした20日、アナリスト向けの電話会見で業績の厳しさを率直に認めた。世界のIT業界を牽引(けんいん)してきたIBMのCEOが電話会見に臨むのは異例だ。
7~9月期決算の売上高は前年同期比4%減の223億ドル(約2兆4000億円)で、12年4~6月期以来の減収が止まらない。最終利益は前年同期比99.6%減の1800万ドル(約20億円)と、売り上げに比べてほとんど利益が出ていない。
利益減少の直接的な要因は半導体製造事業をカリフォルニア州の半導体受託製造会社のグローバルファウンドリーズ(GF)に引き渡す契約だ。IBMは不採算部門を引き取ってもらうため、3年間で15億ドルを支払うことに合意し、7~9月期決算で税引き前費用として47億ドルを計上した。IBMはこれらの費用がなければ最終利益は37億ドルは確保できていたとする。
ただし投資家がIBMに投げかける視線は冷たい。というのもIBMがかねてから噂されてきた半導体製造事業からの撤退に踏み切った背景には「IBMのメーカーとしての競争力がますます落ちてきている」(アナリスト)という現実があるからだ。
かつて半導体産業のリーダーだったIBMはすでに生産量で米インテルや韓国サムスン電子、米クアルコムなどのトップ企業に大きく水をあけられている。過去に蓄えた特許や優秀な開発陣をよりどころにして、高性能製品に活路を見いだそうとしてきたが、成果を残せなかった。マーティン・シュローター最高財務責任者(CFO)は「半導体事業は大規模な投資が必要で、規模で劣っている状態では非常に困難だった」と認める。
米紙ウォールストリート・ジャーナルは「IBMはようやく自らが抱える問題を認めるという痛みを伴う一歩を踏み出した。ただ、痛みを伴う歩みはこれからも続くだろう」と、IBMの前に続く道のりの厳しさを予想する。
1911年創業でコンピューターの黎明期から製造・開発を続けてきたIBMは、93年から2002年までCEOを務めたルイス・ガースナー氏のもとでサービス事業へシフトを進めてきた。不採算部門の売却や企業文化の改革で成果を残したガースナー氏は名経営者として名をあげ、著書「巨象も踊る」は日本でも話題を呼んだ。また後任のサミュエル・パルミサーノ氏も05年にパソコン事業のレノボ・グループへの売却を決断。中国企業による海外企業の買収としては過去最大規模だったこともあり、大きな注目を集めた。
一方、IBMは発行済みの自社株を買い戻して1株あたりの価値を高めたり、高配当を約束したりする「株主に優しい経営」でも知られる。その結果、02年7月に58ドルだった株価は13年1月には213ドルまで約3.7倍にも膨らんだ。ライバルのインテルは同時期に株価を約1.7倍にしかできず、ダウ工業株30種平均も約2倍にしか伸びなかったことを考えれば、IBMがいかに投資家から高く評価されていたかが分かる。
ただし、今ではこうしたIBMの戦略は見せかけの実績を作るためのものだったと批判されている。米紙ニューヨーク・タイムズのアンドリュー・ロス・ソーキン記者は「IBMは00年以降、自社株買いと配当に1380億ドルを費やしたが、設備投資には590億ドル、買収には320億ドルしか使っていない。IBMが誤った目的に資金を使ってきたことは間違いない」と指摘する。
12年にCEOに就任したロメッティ氏は今年1月に低価格サーバー事業のレノボ・グループへの売却を決めるなど、事業の選択と集中を加速させている。さらにパルミサーノ氏が約束した収益目標も撤回し、今後は収益を削ってでもクラウド事業や人工知能への投資を増やす考えだ。
しかしこうした成長分野ではグーグルやアップル、アマゾン・コムといった新興IT企業との対決は避けられない。
ロメッティ氏は「戦略は間違っていない。今は改善を続けるためのスピードが求められているときだ」と覚悟を決めているが、バーンスターン・リサーチのアナリスト、トニー・サカノヒ氏は「新しい分野への移行に十分な早さがない」と冷ややかだ。(ワシントン 小雲規生)