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シャープ社長の表情が冴えぬワケ 忍び寄る「2年目のジンクス」
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平成26年9月中間連結決算について説明するシャープの高橋興三社長=東京都港区 経営再建中のシャープの高橋興三社長が「2年目のジンクス」に過敏になっている。スポーツでは好調な新人選手が翌シーズンに不振に陥りがちなことを意味するが、企業の経営再建にも同じような落とし穴があるという。シャープの中期経営計画(3年)は2年目に入り、平成26年9月中間連結決算は上半期として4年ぶりに最終黒字を確保した一方で、業績予想を売上高、利益ともに初めて下回った。会見でも収益力の陰りとして忍び寄るジンクスを意識してか、高橋社長の表情はさえなかった。(松岡達郎)
「何としてでも年間では取り返す。会見の音声は社内で流れており、みんなで緊張感を持ってやってくれると思う」
26年9月中間連結決算の発表会見で、上半期に売上高、利益ともに業績予想を下回ったことについて、高橋社長はこう話した。
最終損益は、47億円の黒字(前年同期は43億円の赤字)を確保した。ただ、欧州での家電の自社販売からの撤退に伴う特別損失を有価証券の売却益などでカバーしたのが実情だ。
中国のスマートフォンメーカーへの中小型液晶パネル販売が好調だったが、国内で白物家電や太陽光パネルなどが苦戦し、本業のもうけを示す営業利益は13・6%減の292億円とふるわなかった。売上高は1・1%減の1兆3276億円で、売上高の27年3月期通期の予想は3兆円から2兆9千億円への下方修正に迫られた。
決算発表に先立ち、高橋社長が社内へのメッセージで「第1四半期は決して順調といえる水準ではなく、第2四半期も大変な苦戦を強いられた」と打ち明けた通りの厳しい内容だった。
2年目のジンクスに陥っているのではないか-。
実は、シャープ経営陣は収益力の回復に陰りがみえる業績について金融機関からこう指摘されたという。
その金融機関によると、経営危機に陥った企業のうち短期間で「V字回復」を果たすのは4分の1程度にすぎず、残りの大部分は経営再建に手間取って危機的な状況を深刻化させることが多いという。
1年目は人員削減や事業売却などで固定費を削減する余地があり、社員も危機感を持って全力を尽くすため乗り切れるが、真価を問われるのは2年目。ただ、そこで緊張感が緩んだり、疲れたりして失速して業績が伸び悩むケースが意外に多いのだ。
高橋社長はそれまでのリストラ効果で1年目を乗り切った格好で、平成26年3月期連結決算は巨額赤字からの黒字転換を果たした。
2年目も勢いに乗って回復軌道に乗りたいところだが、出血を伴う構造改革が待ち受けていた。
関係者は「上半期は経営危機を招いた過去の負の遺産処理に追われた。売上高で3兆円から6兆円への拡大路線を掲げ、身の丈を超えた巨額投資に踏み切った結果、リーマンショック後に重荷になった事業だ」と解説する。
第1四半期には、中国勢との価格競争で苦戦する太陽電池事業で、欧州でのイタリアの電力大手との合弁を解消。特別損失143億円を計上した。
第2四半期には欧州での液晶テレビや白物家電の自社販売から撤退。これに伴い57億円の特別損失を計上し、「相応の出血はしたが、将来的な止血はできた」(関係者)という。
26年9月中間連結決算では負の遺産処理による出血を所有株の売却益で補った格好だ。ただ、金融機関が問題にしたのは営業利益が292億円と業績予想の350億円に足りないなど、売上高、利益ともに想定を下回る水準だったことだ。
2年目のジンクスに陥りかねない時期に浮き彫りになった収益力の低下に対して、高橋社長は決算発表会見で「売上高が伸び悩んでも利益を確保できる『筋肉質化』に取り組んでいる」と述べた。
シャープは10月から、管理職に続いて一般社員の人事評価制度も減点主義から加点主義に変更。社内で公募した新技術やビジネスモデルを推進する「戦略投資枠」を導入し、全社員が挑戦しやすい環境を整備している。
関係者は「即効性のある制度ではないかもしれないが、今後這い上がる強さを持続的に身につけるためには必要な施策」と説明する。
早期のV字回復に向かうのか、再建が進まず低迷に落ち込むかの岐路に立っているともいえるシャープ。高橋社長は「指示待ちをなくし、それぞれの社員が当事者意識を持って努力するように取り組んできたが、若い人からチャレンジする提案が出てきている」と社内風土改革の成果を実感する。だが、ジンクスに陥らないために残された時間はわずかしかない。