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コロナにも打ち勝つ“究極のテレワーク”となるか 1人出版社が挑む

波溝康三

 全国で書店の閉店が相次ぐなど出版不況が深刻化する中、たった1人で東京で出版社を立ち上げ、本の発行に取り組むフリーの女性ライターがいる。「本当に書きたい、読者へ伝えたい、と思う本を出版するためには現状の出版業界では難しい」と痛感。一念発起し、新刊2冊を出版した丸古玲子さん。新型コロナウイルスによるテレワークなど、労働の在り方に変革が求められる中、取材・執筆から販売まで1人で完結できる1人出版社の試みは“究極のテレワーク”といえるかもしれない。

 2018年11月に出版した1冊目のノンフィクション「呉本 くれぼん~海軍、空襲、大和。ふるさと11人のインタビュー~」は評判となり、すぐに増刷が決まり、昨年3月、2刷目を刊行した。

 「本が売れない」という厳しい現状の中、硬質なノンフィクションの新刊が重版されるのは、全国に書店の販売網を持ち、新刊発行の際、潤沢な広告宣伝費を投入できる大手出版社でも近年、難しいといわれている。そんな出版事情の中での“1人出版社””の奮闘が話題を呼んだ。

 「呉本」は、第二次世界大戦中、広島県呉市で、呉空襲を体験した高齢者や、戦艦「大和」の潜水調査に関わった学芸員、海上自衛隊呉地方総監など、“軍港・呉”に関わる11人に、丸古さんが直接会いに行き、取材し、まとめた長編ノンフィクションだ。

 きっかけは「この世界の片隅に」

 なぜ、呉をテーマにした「呉本」を刊行しようと考えたのか?

 丸古さんは1970年、呉市出身。大学進学のために、18歳で上京するまで地元で過ごした。大学卒業後、東京都内の編集プロダクションなどを経て独立。フリーライターとなり、映画やドラマ、演劇などの記事を雑誌などに寄稿したり、本やパンフレットなどを編集したりする仕事を続けてきた。

 転機は4年前に訪れた。

 「なぜ、私は生まれ故郷・呉の歴史について、今まで何も知らないまま過ごしてきたのか?」と疑問を抱いたのだという。

 そう考えるようになったきっかけは、広島県出身の漫画家、こうの史代さんの連載漫画「この世界の片隅に」を読んだことだった。

 第二次世界大戦下、旧日本海軍の拠点の1つだった軍港・呉で、激しい呉空襲など戦渦の中を生き抜いてきた人々の日常生活を淡々と描いた物語は、2016年、片渕須直監督によってアニメ映画化され、大ヒットした。  

 「私は呉で生まれ育ったのに、戦時中の呉のことをほとんど知らずに生きてきたことに気づかされました」と話し、こう続けた。

 「ライターである限り、私が何らかの形で呉の歴史について記すべきではないか」と。

 ただ、そのときは、「これが本になる、本にしようとは考えていませんでした」と振り返る。

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