コロナにも打ち勝つ“究極のテレワーク”となるか 1人出版社が挑む
それなら、「あとから自分で書店を探せばいい。とにかく出版社を立ち上げ、呉本を完成させよう」と丸古さんは決意。本を出版するための手続きを調べ、ISBNコード(書店や通販サイトのアマゾンなどで販売するために必要な図書コード)を取得するなど、出版社設立に向けた準備を進める。
「呉について知りたい」と取材を始めてから2年後の18年、念願の1人出版社「ちょうちょ人間」を発足。知人の装丁デザイナーなどに協力してもらい、印刷工場も見つけ、遂に「呉本」を約1000部完成させた。
気になるのが出版にかかった費用。丸古さんに聞くと、「私は知人の協力などを受け、できる限り費用を抑え、切り詰めた」と説明したうえで、出版社設立費用からISBNコード取得費用、本の印刷代などを含め計約100万円だったと教えてくれた。
ただ、ここには当然、取材でかかった費用や交通費、資料費、人件費などは含まれていない。
広がる出版の可能性
執筆者として本を出した後も丸古さんには出版社の仕事が待っていた。
「あくまで私個人の出版社。刷り上がった本は自宅に納品されます。書店からの注文には自分で対応し、発送まですべて1人で行っています」
また、取次がないため、書店営業は「すべて直談判です」と語り、「店頭に並べることを断られた書店は少なくありませんよ」と打ち明ける。だが、一方で丸古さんの熱意に、呉市や広島市の書店などが次々と協力を申し出てくれ、予約が入り始める。
母校の県立呉宮原高校の教諭からは、「どうやって呉本を完成させたか」などについての講演依頼がきたり、海自呉地方総監部からは、「教育隊の隊員に読ませたい」と大量発注が入るなど地元でブームが起こり、初版は完売。初版刊行からわずか4カ月で重版が決まった。
手探りの状態から、1人で出版社を興し、貯金をはたいて、約2年を費やし「呉本」刊行までこぎつけた。
「初版を売り切り、何とか製作費は捻出できました」と、ほっとしたのも束の間で、出版社代表として丸古さんはすぐに動き始めた。
今年2月、同出版社から2冊目となる「江田島本 えたじまぼん~伝統はだれが作る。伝統、伝承、伝説の島~」を刊行した。
「呉について調べていくうちに、ごく自然の流れで、今度は呉の向い側にある江田島の歴史に興味が広がっていったんです」と丸古さんは話す。
新型コロナウイルスによる影響で増々、逆風が強まる出版業界。丸古さんが挑む“1人出版社の奮闘”は、アフターコロナの1つの働き方のヒントとなりそうだ。