トラック運転手に“夜討ち朝駆け”
BOSSが誕生したのは1992年8月。バブル経済が崩壊して間もなく、日本が大きな転換期を迎えた頃だった。米スペースシャトル「エンデバー」が打ち上げられ、毛利衛さんが日本人初の宇宙飛行士になったほか、バルセロナ五輪(スペイン)で当時14歳だった岩崎恭子選手が競泳女子200メートル平泳ぎで金メダルを獲得した年である。
それから29年間、世代を超えてこれまで愛されてきた理由の一つに、巧みなブランド戦略がある。
コンセプトは「働く人の相棒」。大塚さんは一昨年、青森の漁港を訪ねると、自販機の前で一日中立っていた。そうして、BOSSの缶コーヒーを購入した長距離トラックの運転手に「サントリーの缶コーヒーを作っているんです。なんでコーヒーを買われたのですか」と声をかけたという。
近くのスナックに案内され、飲みながら苦労話に耳を傾けることもあった。寒風吹きすさぶ中、外で仕事を続ける人がいる。夜通しトラックを運転する人もいる。いわば、開発担当者による消費者への“夜討ち朝駆け”だ。
「BOSSを飲んでくださる人たちと一緒に働く。その人たちに添い遂げる覚悟はあるか。そこまで思いを馳せて仕事ができなければ、『相棒』とは言えないのではないか。お客さまの信頼を得ながら、関係性を築いていく。脈々と受け継がれてきた伝統です」と大塚さんは力説する。
働く人の声を知らずして、働く人を支える商品はできないとの強い思いが、開発担当者を青森の漁港へといざなったのだろう。
大塚さんは「美味しくなければいけないのは当然ですが、味が美味しいだけでは売れません。雰囲気を作っていくことが大切だと考えています。その空気を商品にどうまとわせるか。パッケージデザイン、ブランドをすごく大事にしています」と強調する。
ハリウッド俳優のトミー・リー・ジョーンズが扮(ふん)する「宇宙人ジョーンズ」のテレビCMシリーズが人気だが、昔からBOSSは広告戦略に長(た)けていた印象がある。1999年、缶コーヒー「ボス」に付いている応募シールを集めて、はがきを出した人の中から抽選で2万人にオリジナルの携帯電話「ボス電」をプレゼントするキャンペーンを実施したところ、約522万通もの応募が寄せられた。一つの社会現象にもなったほどだった。