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本心は違う? 原発再稼働へ4社明暗 新基準適合の対策で温度差

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本心は違う? 原発再稼働へ4社明暗 新基準適合の対策で温度差

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 原発再稼働をめぐり、電力各社の明暗が鮮明化してきた。原子力規制委員会による原発の新規制基準に基づく安全審査が始まり、原発停止に伴う火力発電の燃料費増加にあえぐ電力各社は収益改善に欠かせない早期の運転再開に期待を寄せる。北海道、関西、四国、九州の4電力会社が安全審査を申請したが、審査次第では“後回し”にされる可能性もある。審査を通っても地元の理解を得なければならず、思惑通り再稼働にこぎ着けられるかは予断を許さない。

 「本心ではそんな津波は来ないと思っているのか」

 東京・六本木の原子力規制庁で今月16日に開かれた規制委による初めての審査会合。居並ぶ委員から電力会社の担当者に、こんな厳しい質問が飛んだ。

 新基準は東電福島第1原発事故を教訓に従来の指針などを見直して策定、8日施行された。炉心溶融や放射性物質の大量放出といった過酷事故への対応や地震、津波対策を強化したのが特徴だ。再稼働には新基準に適合していることが条件となる。

 新基準の施行に伴って規制委に安全審査を申請したのは、北海道電力泊1~3号機(北海道)、関西電力大飯3、4号機と高浜3、4号機(ともに福井県)、四国電力伊方3号機(愛媛県)、九州電力川内1、2号機(鹿児島県)と玄海3、4号機(佐賀県)の6原発12基。

 規制委は3チームで審査に当たる方針で、審査の順番は明示しないが、「新基準にしっかりと適合している原発ほど自然と審査は早くなる」(原子力規制庁幹部)とされ、審査には半年程度かかるとの見方もある。

 「第1陣」から外れると審査終了まで1年以上遅れる恐れもあるだけに、各社は審査への対応に注力するが、申請した4社間にも“差”が開きつつある。

 最も早く審査結果が出るのは伊方3号機となる公算が大きい。高台にあることから大がかりな津波対策の必要はなく、敷地内の活断層も指摘されていないためで、川内1、2号機も有力とみられている。

 一方、需要のピークが冬場となる北海道電力も「冬前までに再稼働させたい」と、泊1~3号機の早期審査を望んでいるが、規制委は技術的、科学的な審査に徹するとしており、需要などの外的要因を考慮して審査を優先する可能性は低い。

 申請した4社で最も厳しい状況にあるのが関電だ。大飯3、4号機と高浜3、4号機は「活断層問題が未解決」として後回しにされるとの見方が強く、今冬の関電管内の「原発ゼロ」が現実味を帯びる。

 関電は2013年3月期連結決算が2434億円の最終赤字となり、2年連続で過去最大の赤字を更新。14年3月期が3年連続の最終赤字に陥れば投資家が事業の先行きを一段と厳しくみるのは必至だ。発電設備に占める原発比率が高いため影響は大きく、「他電力より早く再稼働にこぎ着けたい」との思いは強い。

 「後続」グループの悩みも深い。東電は7月中にも柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)の申請を行いたい考えだが、地元の反発は強く、情勢は流動的だ。2期連続で経常赤字の同社は「申請できなければ電気料金の再値上げしかない」(幹部)と危機感を募らせる。

 日本原子力発電は敦賀原発1号機(福井県)と東海第2原発(茨城県)の再稼働に意欲を示す。東海第2では防潮堤などの工事に着手しているが、地元では再稼働に反対の声が根強い。

 敦賀2号機も活断層問題がくすぶり、廃炉を迫られる可能性がぬぐいきれない。北陸電力の志賀原発1号機(石川県)も原子炉建屋直下に活断層があると指摘されるなど、再稼働に向けたハードルが残る。

 電力各社は火力発電の燃料費増加で巨額赤字を計上し、原発再稼働で早急に燃料費を減らしたい瀬戸際の経営状態にある。それだけに、安全審査の進展に神経をとがらせるが、再稼働には地元の了解も欠かせない。

 値上げ困難 収益悪化は不可避

 安倍晋三首相は規制委による安全確認後、「できる限り早く(再稼働を)実現したい」と強調する。

 ただ、「あくまで安全かどうかの確認をしてもらうだけで、再稼働とは全くの別物」(佐賀県の古川康知事)とする自治体もあり、安全審査の終了から再稼働まで時間がかかるケースも想定される。

 値上げに踏み切るのは困難な状況で、収益悪化に歯止めをかけられない。

 「一日でも早く再稼働できるように祈っている。それまでは耐えるしかない」(大手電力幹部)。焦りばかりが募る。(橋本亮)

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