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世界初の浮体式洋上風力発電 海洋国家・日本の切り札

ニュースカテゴリ:社会の科学技術

世界初の浮体式洋上風力発電 海洋国家・日本の切り札

更新

「ふくしま未来」に併設するため、福島県いわき市の小名浜港に向けて曳航(えいこう)される浮体式の変電所=7月13日、横浜市鶴見区扇島沖(福島洋上風力コンソーシアム提供) 【ラストチャンス】(1)洋上風力発電(上)

 震災復興・産業創出に息吹

 京葉工業地帯の一角にある三井造船千葉事業所(千葉県市原市)。6月下旬の早朝、サッカー場がすっぽり入る広さの造船ドックに、ポンプで吸い上げた海水が勢いよく流れ込んだ。水かさが増し、ゆっくりと浮き上がったのは重さ2250トン、出力2000キロワットの大型風車を載せた浮体式の洋上風力発電設備「ふくしま未来」だ。

 世界初の浮体式

 ふくしま未来は3隻のタグボートに引かれ4日後に小名浜港(福島県いわき市)に接岸、7月28日に沖合へ移動を始めた。東日本大震災の被災地で、海洋国家日本を象徴する国家プロジェクトが動き出した。

 風車は広野町沖20キロの海上に浮かび、10月にも発電を開始、東北電力を通じて約1700世帯に電気を供給する。さらに、3年かけて発電効率や環境影響を調査し、2018年には出力10万~30万キロワットの世界初の浮体式洋上風力発電所が誕生する。

 再生可能エネルギーは、安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の戦略分野の一つ。この発電所は、原発1基分に当たる約100万キロワットに拡張する計画で、百数十本の巨大風車が海に浮かぶ光景は、復興の象徴であると同時に成長戦略としての期待も大きい。

 再生可能エネルギーの本命といわれる洋上風力。建設コストは陸上の約2倍だが、騒音や土地の制約がなく、強い風と大型風車で発電効率を上げられる海洋国家・日本の切り札だ。

 20年の世界の洋上風力の市場規模は、現在の約28倍の5兆7000億円規模と予想される。先行する欧州は、遠浅の地形を生かし海底に風車を建てる着床式が主流。しかし、深い海を持つ日本は、海底の錨(いかり)に係留チェーン(鎖)をつなげ、風車を固定する浮体式で世界市場に挑む。

 プロジェクトで浮体部分の開発と製造を手掛けた三井造船は異例の約半年で完成にこぎつけた。指揮をとった今北明彦・事業開発部長は「納期まで非常に短く、手探りで走る状態だった」と振り返る。

 日本と同様、浮体式で勝負をかけたい韓国は、国際電気標準会議(IEC)の場で、安全基準や仕様の標準化で主導権を握ろうと動いたが、福島沖で実証試験に入る日本は、まだ計画段階の韓国を大きく巻き返すことになる。

 福島沖に浮かぶ洋上風力発電は「震災復興とインフラ輸出、産業振興につながる」(資源エネルギー庁の村上敬亮・新エネルギー対策課長)象徴的プロジェクトだ。

 採算度外視で臨む

 アベノミクスを追い風に、新たな成長分野が育とうとしているが、「国際競争に勝つには、できるだけ早く技術を確立する必要がある」と指摘するのは、プロジェクトの技術リーダーを務める東大の石原孟教授。政府も3年の実証期間のうち、すでに2年で実証試験として破格の220億円の予算を計上し「国を挙げて採算度外視で臨んでいる」(関係者)。

 台風や高波が直撃する過酷な洋上で働く風力発電設備には、最先端技術がたくさん詰め込まれている。

 日立製作所が担当する変電所は、海に浮く世界初の変電所。「一定以上傾くと絶縁油が流れ致命傷になるため、揺れに強い構造に腐心した」と高田俊幸・風力発電推進部長は語る。

 古河電気工業は、電力や制御信号を伝える海中ケーブルで6万6000ボルトの高電圧を実現。「水の浸入を防ぐ層の形状と、耐疲労性に優れた素材開発」(藤井茂・洋上風力プロジェクトチーム長)で突破口を開いた。

 三菱重工業が来年度投入する高層ビル並みの高さ200メートル、出力7000キロワットの風車も世界で初めてギア式でなく、油圧ドライブ(駆動装置)式を採用する。

 「洋上風力は、大型化すればするほど技術的に難易度が高まる」(和仁正文・常務執行役員)が、修理が大がかりになる洋上での故障は大敵。そこで同社はギア式よりも故障が少ない油圧式のデジタル制御技術を持つ英ベンチャー、アルテミスを10年に買収し、新技術に挑戦している。

 大型の風車や浮体、浮体を海底から固定する800メートルもの長さの鎖など実証試験だけで2万トンもの鉄を供給する新日鉄住金も造船技術を活用。過酷な環境下で耐えられる船向けよりも丈夫で、しかも軽量で溶接しやすい厚鋼板を開発した。

 「日本発の技術を世界標準にし、世界に打って出る」(川崎博史・参与厚板技術部長)と、日本の素材開発の強みを世界にアピールする。

 領海と排他的経済水域(EEZ)などを合わせた海域が世界6位の日本。海洋開発の可能性は、宇宙よりも広がる。

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