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“独裁者”を怒らせ、怯えさせる「軍事ゲーム」…名誉毀損や発禁処分も

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“独裁者”を怒らせ、怯えさせる「軍事ゲーム」…名誉毀損や発禁処分も

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中米パナマのノリエガ元将軍の捕捉を題材にした軍事ゲーム「コール・オブ・デューティ・ブラック・オプス2」をめぐる訴訟を伝えるテレビ映像(YouTubeより)  軍事ゲームをめぐる“騒動”が世界で相次いでいる。かつての独裁者は、自らの捕捉をテーマにしたゲームに怒り、売上金の一部を請求する訴訟を提起。また、軍事クーデターが今年起きた「ほほえみの国」では、大統領になって島国を統治するゲームが発禁処分になったという。それは、それぞれのよりどころの不安定さも示している。

 名誉毀損だ、分け前をよこせ…

 米CNNや英BBC(いずれも電子版)によると、1980年代に中米パナマで独裁政権を敷き、その後、米国の侵攻を受けたマヌエル・ノリエガ元将軍(80)は今年7月15日、自らの捕捉を題材としたゲーム「コール・オブ・デューティ・ブラック・オプス2」の販売元企業に対し、損害賠償を求める訴訟を起こした。

 2012年に発売されたゲームで、ノリエガ氏は殺人者、誘拐犯として描かれた。米大統領の元補佐官や米中央情報局(CIA)元長官らも“出演”するなど、現実により近い形で仕上げられており、販売開始からの数カ月間で10億ドル以上も売り上げたとされる。

 ノリエガ氏は、米カリフォルニア州ロサンゼルス郡の裁判所に起こした訴訟で、名前を勝手に使われ、しかも誘拐犯や殺人者といった設定も名誉毀損(きそん)にあたるなどと主張。「多くの虚構が混じり、極悪な罪を犯した犯罪者、米国の敵対者として描かれ、誤ったイメージを植え付けられた」と訴え、ゲームの売上金の一部を請求した。

 独裁政権を敷いていた際、ノリエガ氏はコロンビアの麻薬密輸組織から資金提供を受け、数百万ドル規模の蓄財をしたとされる。1989年に米国に侵攻され投降したが、その後は資金洗浄や麻薬密輸の罪に問われ、実刑判決を受けた。

 今回の騒動についても、元独裁者としてのプライドがうずいたのかもしれないが、むしろコロンビアの麻薬組織と結託した際と同様、「分け前をよこせ」と目を付けたようにもみえる。

 批判の“芽”を摘み取る?

 バンコク・ポストや英紙ガーディアン(いずれも電子版)によると、今年5月に軍部によるクーデターが起きたタイで、ドイツ企業のゲーム「トロピコ5」の発売が差し止められた。バンコク・ポスト(電子版)などが伝えた。

 ゲームは、カリブ海の島国の大統領になって、憲法を起草し、統治を行うという設定。大統領は報道規制し、無慈悲な独裁者だが、女性をリーダーとした反乱勢力があり、米紙ワイアード(電子版)によると、クーデターがあったり、大統領選に落選したりするとゲームオーバーになる。

 バンコク・ポストによると、タイでの販売代理店の担当者は、検閲機関の担当者から「内容の一部が国の平和に悪影響を与える」と指摘されたと説明した。

 検閲機関はテレビでのポルノやたばこ、不道徳やポルノ、君主制への非難など取り締まっているが、今回はシリーズ5作目で、それまでの作品は軍事クーデター発生前に発売されており、発禁などにはなっていなかったという。

 ただ、タイ陸軍は5月22日の軍事クーデター後、メディア規制に乗り出したほか、同28日には情報通信技術省に命じてフェイスブックへの接続を一時的に遮断するなどの処置を行っている。

 自らの政権に対する批判と受け取られかねない事象について、過敏になっていることが伺える。トロピコ5発禁についても、同様の過剰な対応にみえる。

 ゲームが国家安全保障の脅威?

 統治・軍事ゲームは過激になる一方で、過剰な暴力シーンや挑発的な内容から、社会問題になったり、発禁処分になるケースもある。いずれのケースも“独裁的”な色彩の濃い国家で行われている場合が多い。

 例えば、ウォールストリート・ジャーナル(電子版)によると、中国は昨年末、戦争シミュレーションゲーム「バトルフィールド4 チャイナライジング」を発禁処分にした。

 中国軍のトップが政変の一環として米軍攻撃を決定するという設定だが、発禁理由は、自国文化への攻撃であるとともに、国家安全保障を脅かすことだという。

 ゲームをめぐる「独裁者」のやりようには驚かされるが、一方で、こうした事象はそれぞれの立場の危うさも示している。

 名優チャーリー・チャプリンは映画「独裁者」のラストで、第二次世界大戦に向かう独裁者たちへの警鐘とともに、民主主義への結集を訴え、こう演説している。

 「絶望してはいけない」

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