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【電力考】原発 「政治・経済条項」が「真の安全条項」
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石川和男氏 □石川和男・NPO法人社会保障経済研究所代表
国の原子力規制委員会・規制庁など原子力発電の安全に係る行政組織は、9月までに見直される予定だ。これに関する検討は、自民党「原子力規制に関するプロジェクトチーム(PT)」(座長・吉野正芳議員)で始まっている。だが、このPTは、規制委・規制庁などによる行政が大きな隘路(あいろ)に嵌(はま)っている現状を作った原因者である。
私としては昨年10月に検討を始めた自民党「原子力政策・需給問題等調査会」(会長・額賀福志郎議員)と、その下の「原子力政策小委員会」(委員長・森英介議員)に、原子力規制改革への先導役を担うことを切に期待したい。その際、見直しの基本思想となっている「より国際的な基準に合致するものとなる」ことが肝要だろう。
◆安全に動かすを再認識
今、最も必要なことは、原発関連で十分な安全投資を行えるようにするための「原子力発電の正常化」と「原子力規制の適正化」だ。今回の見直しで強く求めたいのは、規制委・規制庁の任務が『原発を動かさないことではなく、原発を安全に動かすこと』であることを再認識するとともに、それを大前提とした次の5項目に係る原子力規制改革だ。
(1)合理性・一貫性の徹底 日本が規制委・規制庁を設置するに当たって参考にした米国のNRC(原子力規制委員会)は自立性、開放性、効率性、明瞭性、一貫性という5原則を掲げ、日々の規制運用に反映されてきている。だが、今の規制委・規制庁には、特に効率性(規制行政に係るコストとリスク低減度合い、メリットのバランスを考慮すること)と一貫性(一度決めたことを揺るぎなく貫徹すること)が欠落している。そこで、この2点を規制運用上の新たな原則とすべきだ。
(2)規制運用ルールの明文化 現行の規制委・規制庁は、ある原発の審査でいったん下した判断を別の原発の審査では反映しない例が出ている。これでは、規制委・規制庁(規制する側)にも、原子力事業者(規制される側)にも、「良き前例」が踏襲されず、規制環境が混乱したままになる。これを避け、一定の予見可能性を確保するため規制運用ルールを明文化すべきだ。
(3)助言機関の創設 規制委に置かれている原子炉安全専門審査会や核燃料安全専門審査会などを有効活用するため、メンバーを充実し、外部の知見を生かしていく仕組みをつくる必要がある。つまり米国のACRS(原子炉安全諮問委員会)を参考に、規制委・規制庁への助言機関の創設を含めた外部意見の採用促進策を明文化すべきだ。
(4)規制の立法・行政機能の分離 現状では規制委・規制庁がリスク評価と管理の両方を担っているが、警察が立法を行う如く危険極まりない。規制立法機能については、規制委・規制庁から切り離し、別の機関に担わせる必要がある。規制委・規制庁の任務は、規制行政機能に特化させるべきだ。
(5)バックフィットの適正化 制度変更後の基準に適合するよう既存の施設や設備を改造することをバックフィットと言う。規制委・規制庁は“田中私案”と称される法的根拠のないメモに書かれたことを以て、全ての原発に一律・全面的にバックフィットを義務付けている。その結果が、今の“原発ゼロ”。これは世界的にも異常事態である。グローバルスタンダードに沿って発電再開を早期に容認し発電しながら安全確認と安全性向上を図るという合理的な審査ルールを明文化すべきだ。
◆ヒト・モノ・カネが必要
以上5項目は、いわば「政治・経済条項」。規制当局が基準に沿って判断する際、科学的・技術的な見地から行われるのは当然で、そこに政治・経済的視点での介入があってはならない。だが、規制の水準や運用方法に関しては政治・経済的視点から一定のルールが必須になる。与党にはぜひ御一考願う。
例えば、基準審査に標準処理期間を設定しておくことは、原発の出処進退を円滑に決定する上で重要だ。安全に稼働を継続するか、安全に廃炉工程に入るか、いずれにも必要なヒト・モノ・カネの準備を万全にする必要があるからだ。政治・経済条項こそ、真の安全条項として必置である。
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【プロフィル】石川和男
いしかわ・かずお 東大工卒、1989年通産省(現経済産業省)。各般の経済政策、エネルギー政策、産業政策、消費者政策に従事し2007年退官。09年東京財団上席研究員、政策研究大学院大学客員教授など歴任。11年から現職。1965年福岡県生まれ。