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岸博幸氏に聞くプレーン・パッケージ法 「営業・表現の自由侵す」「値上げが先決」
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健康被害を強調したたばこを陳列するオーストラリアの売り場 たばこのパッケージを簡素化したうえで、健康被害を警告する写真や文章を大きく記載する「プレーン・パッケージ(PP)法」。豪州が2012年末から施行したのに続き、今年3月にはアイルランドと英国でも同様の規制法が成立した。たばこ業界や生産・輸出国が反発するなど国際的に波紋が広がっている。
豪州のPP法は、喫煙意欲を削いでたばこ消費を抑制するため、パッケージから一切のデザイン要素を排除。箱の色を茶緑に限定した上で、ブランド名のフォントスタイル、サイズ、位置まで規定されている。さらに肺がんの写真など画像付きの警告表示を前面75%、後面90%に掲載しなければならない。
愛煙家で知られる慶応大大学院教授の岸博幸氏は「企業の営業の自由、表現の自由を侵すのに相当するほどの害悪があるのか疑問だ」と話す。識別、出所保証、品質保証など商標の本質的機能が著しく低下し、ブランド価値が損なわれるのは必至で、日本たばこ産業(JT)を含む世界のたばこ会社が「PP法は違憲である」と豪政府を相手取り提訴したものの、豪連邦最高裁は合憲と判断した経緯がある。
導入から10カ月後、豪州コンビニ協会は、商品を探す時間が余計にかかる▽間違った製品を渡したことによる返品の増加▽在庫管理にかかわる時間と発注ミスの増加-など混乱が生じていることを発表した。
一方、ロイター通信によると、豪州でたばこに支出される金額が減少し、今年1~3月には統計が開始された1959年以降で最低となり、80年代と比べて半分以下の水準になった。PP法施行以外にも2010年に25%、13年に12.5%のたばこ増税が実施されたことや、低価格品へシフトしたことの影響が考えられる。
PP法導入は世界保健機関(WHO)が採択した「たばこ規制枠組み条約」の反映だが、岸氏はWHOが「たばこを害悪」と断定する根拠にも疑問を呈する。「WHOのデータは疫学的推計。たばこを吸う人が肺がんで死んだという相関関係は分かっても、たばこを吸ったために死んだという因果関係までは証明できていない。食生活、遺伝、ストレスと肺がんの原因はいっぱいあるはずです」
岸氏は「WHOの議論は偏っている。さも中立公正な意見であるかのように感じるが、国際機関とは理事国や関係する業界団体などさまざまな意向を受けている」と自身の経験を踏まえて指摘する。経産省官僚だった1995年から98年まで、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)に出向していた。
「たばこに限らず、政策議論は一面的な見方ばかり強調されて報道されることが多い。現実にはもっといろんな要素があるということを踏まえて、広い目で物事をみてほしい。そうしないとすごく偏った議論に加担することになってしまう」とも訴える。
PP法については、WHOのマーガレット・チャン事務総長が「たばこだけではなく、巨大な食品、炭酸、アルコール(会社)と戦わなければならない」と発言。生活習慣病阻止のため、たばこ同様に規制を進める方向性を明言している。
分煙による受動喫煙防止を評価する岸氏だが、分煙を超えた規制をしたいのならば「PP法の前にたばこの値上げが先決だ」と提言する(くしくもインタビュー後の7月上旬に発表されたWHOの報告書で、チャン事務局長が「税率引き上げはたばこ消費を減らす最も効果的な方策の一つで、多くの財政収入をもたらす」と述べている)。
欧州の先進国では1箱600円以上が軒並みで、英国、アイルランド、ノルウェーなどでは1000円を超える。州ごとに値段が違う米国では500円台から1000円以上で推移。PP法が施行された豪州は2000円以上になる。一方、アジア、中南米、アフリカでは一部を除いて、日本(400円台)よりも安い国が大半だ。
岸氏は「たばこの値段は中ぐらいの新興国レベルなのに、規制に関しては屋内も屋外も制限した最先端というのには矛盾がある」とし、「喫煙者は権利としてたばこを吸う代わりに義務として税金を払う。ならば地方自治体は権利としてたばこ税を受け取る代わりに、義務として必要な分煙ルームを造るのは当たり前」と話す。そして、値上げした分で「分煙施設を造るための補助金などをしっかりと用意するのが筋」と強調する。
また、嗜好品としての役割、文化的側面からも喫煙者を全面的に排除すべきではない、と考えている。
「たばこは嗜好品ですよね。アルコールと同じ。周りの人に迷惑かけてはいけないが、日本人の喫煙マナーは国際的にもかなり優れている。ほかにも嗜好品がいっぱいあるのだから、たばこも認めてほしい」
「日本にはキセル以来の喫煙文化もある。そういった背景をまったく無視し、『健康によくない』と一刀両断にしてダメというのは、やっぱりおかしい。喫煙にはリラックスという効用もあります」
切々と非喫煙者に喫煙者との共生を訴える。愛煙家でありながら、先進国並みに値上げして分煙対策を進めるよう提言する岸氏だけに、その言葉には重みを感じた。
■岸博幸(きし・ひろゆき)慶応大大学院デジタルメディア研究科教授。1986年、通産省(現経産省)入省。1995年、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)出向。1998年、経産省に復職。2000年、内閣官房情報通信技術(IT)担当室グループリーダー。小泉政権下で経済財政政策担当相補佐官、金融担当相補佐官、経済財政政策担当相・郵政民営化担当相政務担当秘書官、総務相秘書官など歴任。2010年、エイベックス・グループ・ホールディングス顧問。一橋大卒。コロンビア大ビジネススクールに留学しMBAを取得。多くのテレビ番組でコメンテーターやパネラーを務めている。