ビッグデータはある、足りないのは「ロングデータ」だ 「人×AI」で気づいたこと
更新石川 よく、「イノベーションというのは組み合わせだ」と言いますけど、確かに、組み合わせによって新しいことを生み出すことはできると思うのですが、そこに深いクオリティを感じるかというのは、また別の話なのだと思います。
松嶋さんは、「何でこの食材がこの土地にあるんだろう」とか、「なぜこの食材とこの食材が組み合わさっているのか」とか、その理由というか起源を研究し、それをベースにしてレシピを作っています。
AIはまだ、そうした歴史がわからないんです。スナップショットで、いまあるレシピを取り込んでいるだけですから。食材がどのような発展をしていまに至るのか、という時系列のデータが、まだないんです。そうしたデータのことを、ビッグデータに対してロングデータと言います。これからは、そうしたロングデータを取得していかなければいけないと、今回改めて思いました。
今という時代だけを切り取って、「じゃあ次は何が新しいんだ」ということはビッグデータでできるわけですが、それだけではまだ、違和感を持たれてしまう。なぜなら、ロングデータがないからです。そのことに気づけたという意味でも、今回の “対決”は転換点になった気がします。
松嶋啓介 | Keisuke Matsushima
1977年福岡県生まれ。シェフ/レストラン経営者。料理学校卒業後、東京のレストランに勤務後、料理修業のため渡仏。フランス各地での修行を経て、2002年、ニースにレストラン「Kei’s Passion」開店。06年、ミシュランガイドで一ツ星を獲得。同年、増床改装し、店名を「KEISUKE MATSUSHIMA」に改める。09年、原宿に「Restaurant-I」(現「KEISUKE MATSUSHIMA」)をオープン。
石川善樹-Yoshiki Ishikawa
1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。近著に『仕事はうかつに始めるな』(プレジデント)、『ノーリバウンド・ダイエット』(法研社)など。