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大手商社、人材育成が新局面 今後の成長戦略を占う鍵

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大手商社、人材育成が新局面 今後の成長戦略を占う鍵

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大手商社各社のグローバル人材育成の取り組み  連結経営を重視する大手商社のグローバル人材育成が新しい局面を迎えている。住友商事は4月から、新たな人事制度を設ける。若手社員を入社後10年以内に海外駐在と2カ所の違う部署を経験させる人事ガイドラインを導入する。資産入れ替えや事業配分を見直す中で「企画力や問題解決能力、適応力の高い多様な人材を育てる」(中村邦晴社長)のが狙いだ。

 大手商社はここ数年、若手社員に海外駐在を義務づけたり、日本人と外国籍社員の合同研修を開催したりしてグローバル人材の育成を急いでいる。人材の質の高さが今後の成長戦略を占う鍵とみているからだ。

 非資源、経営課題に

 大手商社がグローバル人材の育成強化に乗り出したのは、収益構造が従来の貿易から海外の事業会社や投資先から稼ぐ「事業投資会社」に転換。これに伴い、連結先の経営を把握する重要性が増すと判断したためだ。

 三菱商事は、コンビニエンスストアのローソンや豪州の原料炭資源会社、欧米などの自動車販売会社と多種多様な事業会社を地球規模で抱えている。このため本社には「多様性を生かしながら、それをどう束ねるか」(小林健社長)という複雑な経営が求められる。

 加えて、これまで好業績を牽引(けんいん)してきた資源価格が一服し、非資源分野を次世代の収益源にどう育てるかが経営課題に浮上していることがある。

 丸紅は昨年、米穀物メジャー3位のガビロン買収で合意し、伊藤忠商事は「機械や化学品など非資源で商社首位を目指す」(岡藤正広社長)と米ドール・フード・カンパニーのアジア青果物事業を傘下に収めた。豊田通商も、アフリカに強い仏商社セーファーオーを子会社化。いずれも、非資源分野での1000億円を超える大型M&A(企業の合併・買収)だ。

 高度なスキル要求

 だが、大型買収の成否は「現地の経営を生かしつつ日本から派遣する人材や本社の司令塔がどう世界戦略を描けるか」(丸紅の朝田照男社長)にかかってくる。三井物産は資本参加したマレーシアの病院事業に本社社員に加え、中途採用した医師免許を持つ異色人材を派遣した。

 ただ、連結重視経営といっても今や、日本人社員のグローバル化だけでは間に合わない。現地のナショナルスタッフの幹部候補育成も不可欠で、日本人社員と外国人社員との合同合宿でお互いを切磋琢磨(せっさたくま)する研修制度の導入が相次ぐ。

 創業者の益田孝氏が1891年に海外修業制と呼ばれるグローバル人材の育成に乗り出した三井物産。異文化や商習慣の違いを身に付けようと始めた修業生は現在、約2000人にのぼる。

 だが、現在はより高度な経営スキルが要求されるため、2011年からはハーバード・ビジネス・スクールと共同で40歳前後の幹部候補生向け企業内大学をスタート。企業と社会の共生をテーマにマイケル・ポーター米ハーバード大学経営大学院教授らを招き、幹部候補生たちが議論を闘わす。米ダウ・ケミカルやブラジル資源大手のヴァーレなどの幹部候補生も加わることで「旧態依然とした常識を打ち破り、新たなビジネスモデルを創造できる人材を育てる」(飯島彰己社長)という。

 “外国籍”幹部登用でもう一段の国際化

 「把握した情報を事業投資やプロジェクトにどう落とし込むか。収益やリスクを管理する経営者としての仕事も求められている」

 2010年度から経営主導の人材育成を掲げる丸紅は、平等主義の旗を降ろし、抜擢(ばってき)人事の導入や若手の海外派遣など制度改革に取り組んでいる。その一環として、昨年から、教育のハブを目指すシンガポールの政府系グローバル人材育成機関と提携、合同研修の場として国内外の幹部候補生にアジア流経営を習得させる。

 三菱商事は月内に、ビジネススクールと提携し、次世代のリーダー候補になる若手・中堅社員や取引先企業の幹部候補生を対象に経営育成研修を始める。40人をシンガポールに集めて6日間、マネジメントの研修を行う。

 大手商社は早くから、グローバル経営を導入し人材育成に取り組んできた。しかし、本社の経営陣に海外現地法人の幹部が名を連ねたのはただ1人、1993年に伊藤忠商事の副社長に就任した伊藤忠米国法人副社長のジェイ・W・チャイ氏だけだ。

 大手商社はここ数年、人材のグローバル化に力を注いでいるものの、チャイ氏の後に続く海外幹部はいない。このため、真の連結重視経営に向けて、本社経営陣への“外国籍”登用という、もう一段の国際化が迫られている。(上原すみ子)

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