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外国人社員にはキツい「関西弁」 理解不能なツッコミで誤解招くリスク
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大和ハウス工業人事部では、ラトビア出身のアンティポヴァ・ダナさん(左)と、西村昇主任が熱心にコミュニケーションをとる=大阪市北区 その関西弁、外国人社員に正しく伝わっていますか?-。クボタやパナソニックなど、関西に本社拠点を置く企業が共同で、関西企業向けの外国人社員受け入れマニュアル作成に取り組んでいる。標準語の日本語を学んだ外国人に関西弁の意味やニュアンスは理解されにくく、ミスコミュニケーションにつながりかねないためだ。だが、生粋の関西人に標準語で仕事をしろというのも酷な話。マニュアルで、両者の距離はどこまで縮められるか…?
「お前、何しとんねん。ともかく、やる気やで!人間ガッツが大事やさかいに!」
「?…す、すみません…」
とある関西の企業。ミスをした外国人社員を日本人上司が元気づけようとかけた言葉に、その外国人社員は縮み上がった。関西弁の微妙なニュアンスが分からず、「ひどく叱られた」と感じてしまったのだ。
日本人上司としては、ミスを正面から責めるのでなく、軽い調子でミスについて触れたつもりの「何しとんねん」は、「何ということをしたのか」という非難に。「頑張れば何とかなるから大丈夫」、と励まそうとした「やる気やで!人間ガッツが大事やさかいに」は、「やろうという意欲がないからダメなんだ」というだめ押しに聞こえたのだ。
関西人が親しみをこめていう「アホか」や、「なんでやねん」という独特の突っ込みも、外国人には理解不能だ。冗談ではなく、こうした積み重ねによって関西企業では今、日本人上司と外国人社員の間でのミスコミュニケーションが急増。「十分な能力が発揮されていない」など、深刻な問題となっている。
こうした事態に、クボタやパナソニックなど関西企業5社が立ち上がった。平成23年には日本人上司と外国人社員255人にアンケートを実施。外国人社員の96%は自分のキャリアビジョンを持っているが、それを知っている日本人上司は72%にとどまるなど、「両者の間にコミュニケーション上の問題などがあることがわかった」(クボタの担当者)という。
5社は24年から共通のマニュアルづくりに着手。現在はクボタとパナソニックのほか、大和ハウス工業、シャープ、武田薬品工業、川崎重工業、田辺三菱製薬の計7社で作業を進めており、素案も完成した。同様のマニュアルは東京のシンクタンクなども作成しているが、7社では関西企業向けにさまざまな工夫を凝らしている。
マニュアルでは、外国人社員の活躍には普段からの密なコミュニケーションが大切と指摘。「何しとんねん」と上司に言われて縮み上がった外国人社員の例を挙げ、方言やカタカナ言葉、慣用句ではなく、「わかりやすく前向きなアドバイスを」とアドバイスしている。
このほか、「時間厳守、5分前集合」や、会ったことがない相手にも「お世話になっております」で始まる挨拶文など、日本独特のビジネスマナーも「指導、都度確認が必要」と指摘。宴会での座席や女性へのお酌要求も「パワハラと受け止められる」など、注意を呼びかけている。
マニュアル作成を進めている7社は、外国人や女性、障害を持つ人が気持ちよく働ける組織について考える「ダイバーシティ西日本勉強会」のメンバー。いずれも外国人の採用に力を入れており、パナソニックでは、平成12年に35人だった国内採用の外国人社員が現在は約300人に増えている。
クボタも21年から外国人の国内採用を開始し、中国人や韓国人ら約50人が働く。現在は、「新卒採用の10%は外国人に」との方針で、外国人社員への対応は社全体の課題だ。
ただ、このマニュアルは日本人の上司が配慮すべき点をまとめたもので、外国人社員自身がどうすべきかは書かれていない。ある業界関係者は、「『郷に入っては郷に従え』という言葉があるように、外国人社員が“日本流”の理解を深めるよう意識づけを促すことも重要だ」と話している。(中村智隆)