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社会保障改革のゆくえ 「報告書」が求める効率化実現は?

ニュースカテゴリ:暮らしの健康

社会保障改革のゆくえ 「報告書」が求める効率化実現は?

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 社会保障改革の行方が混沌(こんとん)としている。今年8月に「社会保障制度改革国民会議」が終了。方向性は出たが、改革には抵抗感が根強い。具体化は難航するが、団塊の世代が全て75歳になる平成37年まで10年余りしかない。(佐藤好美)

迷走

 介護保険の制度改正を議論する社会保障審議会・介護保険部会。終了後、関係者の一人はこうつぶやいた。

 「厚生労働省もはっきり言えばいいのに…。『保険料を今までの倍額払ってもらえますか、それともサービスを半分にしますか。皆さん、どちらがいいですか』と」

 ため息の背景には厚労省の「迷走」がある。

 今月14日、厚労省は方針を転換。要支援サービスを29年度末までに自治体事業に移行する予定だったが、対象を「訪問介護」と「通所介護」に限定。「訪問看護」や「通所リハビリテーション」「ショートステイ」などは予防給付に残す修正案を示した。

 利用者や自治体に配慮したためだが、ある自治体関係者は「仕事はやりやすくなった」としつつ、「予防給付の見直しは不可欠だったはず」といぶかる。他の自治体からも「半端な改革。理念がよく分からない」との声が漏れた。

強行採決

 要支援事業の見直しは、長く課題だった。厚労省は今回、三党合意で発足した「社会保障制度改革国民会議」が予防給付を自治体事業に移すことを提言したことに頼った。

 同会議は利害関係者を含まないメンバーで構成された。報告書が訴えたのは皆保険の維持。そのために、医療でも介護でもサービスの重点化と機能分担を強く求めた。自然増を放置すれば、早晩、賄えなくなるからだ。

 だが、報告書の実現は心もとない。今月15日、衆議院厚生労働委員会で社会保障改革の「プログラム法案」が可決された。法案は国民会議の報告書に基づき、法律の提出時期などを定める。「成立しても、それだけでは何も動かない法律」(厚労省幹部)。だが、政治家や官僚や国民が改革から「逃げない」ことを共有する狙いがあった。しかし、採決では全野党が反対。与党は強行採決に踏み切った。

攻防

 思惑が入り乱れるのは医療の分野でも同じだ。年末に向けて診療報酬改定の駆け引きが熱を帯びている。

 医療界や政界は引き上げに期待が熱い。民主党政権下の過去2回は全体でプラス改定だったうえ、今回は「消費税増は社会保障財源に充てる」と増税した経緯がある。10月には「整数(1%)以上の引き上げ」がささやかれた。

 これに対して、財務省は先月21日、財政制度等審議会・財政制度分科会に資料を提示。診療報酬を1%上げると、税負担が1600億円、保険料負担が2千億円、患者負担が500億円増えるとし、「いずれも国民負担の増加」だと、引き上げムードを牽制(けんせい)した。

 しかし、その2日後には日本医師会が「診療報酬を増額しないことはあり得ない」と財務省に反論。翌月には、引き上げを求める自民党の議員連盟が発足した。

 一方、支払う側の健康保険組合連合会や日本経済団体連合会など6団体は今月15日、田村憲久厚労相に全体でマイナス改定を要請。さらに、同日の経済財政諮問会議では、「医療提供体制の充実・適正化を図りたい」とする田村厚労相に、安倍晋三首相が具体案を問う一幕もあった。

見えない道筋

 国民会議が医療で強調したのも「病院・病床の役割分担と機能強化」。だが、道筋ははっきりしない。

 会議で象徴的に使われたのが「ワイングラス型からヤクルト型へ」のイラスト上。現状は手厚い看護師配置で高度な医療を担う病床が多いが、リハビリや在宅の受け皿となる病床を増やし、地域医療へ転換を求めた。

 同下は消費増税にあたり、国民に「約束」された「増収の使い道」だ。「病院・病床の機能強化」では「病床の機能に応じた医療資源の充実(6500億円程度)」と「平均在院日数の減少等(▲4400億円)」が並ぶ。充実とともに、どう効率化するか-。そこが問われている。

国民が意識を変える必要がある

 国民会議報告書の医療介護分野の起草委員だった権丈善一慶応大学商学部教授の話「分かってもらわなければならないのは、国民会議の報告書にもあるように『日本の皆保険制度の良さを変えずに守り通すには、医療そのものが変わらなければならない』ということだ。高齢化が進み、医療・介護のニーズは大幅に増える。だが、医療提供体制を今のワイングラス型のまま拡大することはあり得ない。しかも、必要な増税を何十年間も先送りしてきた日本は今や深刻な財政事情を抱え、今後、それほど医療費を増やせるわけではない。皆保険を守るには、医療資源を可能な限り有効に使っていくしか道はないということだ。『効率化』の言葉はこれまで、もっぱら経費削減の意味で使われてきたが、同じ費用、あるいは同じマンパワーで、より医療ニーズにマッチした質の高い医療に転換しようというのが、報告書における『効率化』の趣旨だ。今後、財源の増加分を用いて、いかにして地域医療を再興し、医療・介護の一体改革を進めるかが焦点。目の前の国難を前に、医療界、いやそれよりも国民が意識を変えることが求められている」

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