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伝統野菜、広がる復活の取り組み「日本人の味覚育ててきた」
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ikuraさん(左)から伝統野菜「三河島菜」(手前)の料理の説明を受ける都立農産高校の生徒たち=東京都荒川区の「荒川山吹ふれあい館」 日本にはさまざまな郷土料理がある。その郷土料理に不可欠なのが各地で取れる旬の食材だ。「地域の味」を守るため、地元で長く栽培されてきた伝統野菜を見直し、復活させる取り組みが広がっている。
「今日は三河島菜(みかわしまな)のおいしさを引き出すレシピを考えてみました」。昨年12月下旬、東京都荒川区内で同区の伝統野菜、三河島菜を使った料理の研究会が行われた。フードコーディネーターのikuraさんが考案したスープ、みそマヨトースト、草餅を都立農産高校(葛飾区)の生徒たちが作る。材料の三河島菜は同校で栽培されたものだ。参加した同校2年、加藤佑季(ゆき)さん(16)は「甘みがあっておいしい」と笑顔で話していた。
かつて、大根やネギ、ナス、ショウガなど江戸で消費されるさまざまな野菜が作られていた荒川区周辺。漬物などで食べられていた三河島菜もその一つだ。ただ明治以降は都市化が急速に進み、同区内に現在、農地はない。
復活の動きは約3年前に始まった。江戸東京・伝統野菜研究会(大竹道茂代表)が、仙台に伝わり、仙台芭蕉菜(ばしょうな)として栽培されていた三河島菜の種を取り寄せて栽培。荒川区でも区内の小学校で栽培したり農産高校に協力を求めたりして生産量を増やす取り組みを続けてきた。今後、区役所内の食堂や区内のレストランで三河島菜を使った料理を出すなど、「食べて、知ってもらう」(谷井千絵・観光振興課長)機会を増やす方針だ。
伝統野菜復活の取り組みは全国各地で行われている。大阪府では平成17年に「なにわの伝統野菜認証制度」をスタート。(1)おおむね100年前から大阪府内で栽培(2)苗、種子などの来歴が明らかで大阪独自の品目、品種(3)大阪府内で生産-の基準を設け、天王寺蕪(てんのうじかぶら)、毛馬胡瓜(けまきゅうり)など17品目を認証している。同府農政室推進課の担当者は「伝統野菜は大阪の食文化を支えるもの。認証制度導入により、生産、消費の拡大につながっている」と説明する。
京都府も40品目を「京の伝統野菜」と定義。このうち、聖護院(しょうごいん)だいこんなど15品目を「京のブランド産品」と認証し、販売を後押しする。長野県も「信州伝統野菜認定制度」を設けて41品目・38生産者グループを認定。生産推進や知名度向上に力を入れている。
生産者と消費者をつなぐ流通企業が販売を積極化する動きもある。
有機野菜などのネット通販会社、オイシックス(品川区)は17年から「リバイバル・ベジタブル(リバベジ)」の名称で伝統野菜の販売を始め、20年1月には専用コーナーを設けた。季節により内容は異なるが、20~30種類の伝統野菜を販売している。広報担当の上堀宇花(かみほり・うか)さんは「お勧めの食べ方や農家の思いなどの情報も伝えており、利用者の関心は高い」。
流通大手のイオン(千葉市美浜区)も伝統野菜の栽培農家などを支援する「フードアルチザン(食の匠)」の取り組みを行っており、同社の店舗やネット通販で各地の伝統野菜や加工品などを販売している。
農林水産省によると、「伝統野菜の定義、基準は特にない」(新事業創出課)。伝統野菜について詳しい山形大農学部の江頭宏昌准教授は「各地の保存・振興団体がそれぞれ、栽培場所や栽培が始まった時期などに一定の基準を設けて認証しているケースが多い」と解説する。
現在、流通している野菜の多くは人間が交配して規格などをそろえた交配種で、農家は毎年、種苗会社から種を買う必要がある。一方、伝統野菜は農家が毎年種を取って育ててきた固定種が多い。江戸東京・伝統野菜研究会の大竹代表は「形がふぞろいで生産効率が悪いために流通しにくいが、野菜本来の強い香りや甘み、えぐみ、苦み、うまみなどの多様で濃い味がある。旬が味わえるのも特徴で、日本の食文化を支え、日本人の繊細な味覚を育ててきた」と話している。