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進化する心臓ペースメーカー 心室細動の治療、MRI対応も

ニュースカテゴリ:暮らしの健康

進化する心臓ペースメーカー 心室細動の治療、MRI対応も

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「ペースメーカーは小さくなり、患者の負担も少なくなった」と話す福並正剛大阪府立急性期・総合医療センター副院長=大阪市住吉区  心臓病患者の脈拍を正常に保つ心臓ペースメーカーが進化している。不整脈の治療だけでなく、心不全の治療や突然死を予防する装置としても使われる。磁場に弱いとされるが、強い磁場を発する脳の画像診断装置に対応できる機種も登場。ペースメーカーの臨床研究で知られる大阪府立急性期・総合医療センターの福並正剛・副院長に聞いた。(坂口至徳)

 ペースメーカーは、心臓の拍動で脈のリズムが遅れたり、中断したり、不規則になったりする不整脈の症状を持つ患者の治療に使われてきた。

 手のひらサイズ

 リチウム電池を内蔵した「本体」から電気信号を発し、接続された「リード(導線)」を通じ、心臓の筋肉に伝えて電気刺激する仕組みだ。本体を鎖骨下部の皮下に植え込み、静脈の内部を通してリードを伸ばし、先端部の電極を心臓の筋肉表面に付ける形で装着する。

 本体は常時、心臓の電気信号をモニターし、異常があれば電気刺激を発して正常に戻す。体外からのパソコン操作で自在に刺激の強さなどの調節もできる。本体は長さ4~5センチ、重さ20~30グラムと手のひらに収まる大きさだ。福並副院長は「ペースメーカー本体は電池寿命が伸びたことで、この20年で格段に小さく軽量になり、患者負担が少なくなった。さまざまな機能も付き、治療の範囲が拡大しつつある」と話す。

 最近では、本体にリード2本を接続し、両方の心室に電極を付け、収縮・拡張の状態を心エコー(心臓超音波検査)図や心電図でモニターしながら、効率良く血液を拍出できるよう電気信号を送り、連動させることができる。

 その画期的な臨床応用が心不全患者の心機能を回復させる「心臓再同期療法」(CRT)だ。

 70代の女性患者は同センターで、心臓が拡大して拍動が弱まる拡張型心筋症による慢性心不全と診断された。この病気では、左右の心室がちぐはぐに動いて心臓の壁がゆがんでしまうため、全身に効率良く血液を送り出すことができない。そこで、ペースメーカーの本体から2本のリードを伸ばし、先端をそれぞれ左右の心室に付けて同期させた。

 その結果、当初は1回の左心室の拍動による血液の駆出率は33%しかなかったが、3年後には63%と健常に近い状態になり、心臓の大きさも正常に戻った。

 突然死の予防

 心室が小刻みに震えて拍出の機能を失う心室細動は突然死につながる。この際、電気ショックを与えて回復させるのが「植え込み型除細動器」。この自動除細動機能と一体になったペースメーカーも登場している。心不全と心室細動は関連して起こることが多いため、このタイプの装着を希望する人は多く、現在は全国で年間約6万人のペースメーカーを植え込んだ患者のうち約3900人に装着されており、さらに増える傾向にある。

 医療機器の発達に伴う電気的なトラブルを防ぐタイプも登場した。脳卒中などの有力な画像診断装置であるMRI(磁気共鳴画像装置)は強力な磁場を発生するため、ペースメーカーの電子回路が熱を持つなど使えない状態になる。

 しかし、心臓の不整脈を持つ患者は脳梗塞などにつながることが多いため、装置の材料や電子回路の構造を改良し、条件付きで可能な機種が開発、使用されている。

 福並副院長は「ペースメーカーは不整脈の解除から、心不全の治療、突然死の予防へと進歩してきた。しかし、皮下に装置を植え込むことで日常生活の不便やリスクはある。装着する場合は、医師の説明を十分に聞き、リスクと生活の質の向上の両方を見極め、恩恵が大きい方を選んでほしい」とアドバイスしている。

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