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お墓の引っ越し 高額な「離檀料」 トラブルも

ニュースカテゴリ:暮らしの健康

お墓の引っ越し 高額な「離檀料」 トラブルも

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墓石の移動にはクレーンが使われる。土地の形状や墓石の大きさによっては撤去に2日かかることもある(本文とは関係ありません)  少子高齢化や地方の過疎化などに伴い、無縁墓や荒れる墓が増えているという。こうした中、簡単に墓参りができる場所へ墓を引っ越す「改葬」を考えている人もいる。しかし、改葬をめぐるトラブルも少なくない。

 近くにあれば

 「『離檀料? 600万円?』。聞いて耳を疑いました」

 こう話すのは、東北地方から東京へ、墓の引っ越しである「改葬」をしようとした男性(69)。出身は東北だが、東京で40年近く暮らしている。「終活」を考える中で、先祖代々の墓を東京に引っ越す決意をした。東北のある寺の境内にある先祖代々の墓は、津波の被害こそ受けなかったものの東日本大震災で倒れてしまった。

 自分たち夫婦も年だし、2人いる娘も東京で暮らしている。毎年のように家族旅行を兼ねて墓参りに行っていたが、将来を考えて家の近くの納骨堂に墓を移そうと思い立った。娘らは嫁いだが、近くに両親の墓があれば参拝にきてくれるだろうと考えたからだ。

 平成25年の夏、夫婦で盆の墓参りに行ったとき、住職に改葬の話を持ち出した。「すると、住職が突然、怒り出した。『遺骨を外へ出すなら離檀料を600万円払ってほしい』って言うんです」。「なんでそんな額になるのか」と聞いたら、「あなたたちが墓参りに来ないときでも、寺は毎日のように供養してきた。あなたの両親の月命日にもちゃんとお経をあげてきた」と答えたという。

 男性は「600万円も払えるわけがない。改葬は延期することにした。でも、いずれは東京に遺骨を持ってこないと。将来、無縁墓になっちゃうのも嫌だし」と話す。

 公的機関に相談?

 「離檀料1250万円? そんな話が本当にあるとは」と話すのは、関西で納骨堂の販売責任者をしている男性だ。認知症の症状があり、施設に入っている老人(80)が同じ関西にある両親と妻の墓を納骨堂に移すことになった。

 「家から近いし、50年たって墓を継ぐ人がいなければ合葬して寺が供養してくれるというところを気に入っていたようでした。しかし、後見人が寺に行ったら1250万円の支払いを求められた」

 寺の説明は「亡くなった妻の年忌法要などを寺が自主的にやってきた。(老人の)両親や祖父母の三十三回忌、五十回忌には寺で法要をあげた。他の檀家(だんか)が払っている維持費も払っていない。全部足せば1250万円」というものだった。

 「支払う必要があるのか」と相談をもちかけた後見人に対し、納骨堂の担当者は「寺に対して『公的な機関に相談する』とにおわせたらどうでしょう?」とアドバイス。結局、1250万円の離檀料は50万円になったという。(『終活読本ソナエ』2014年冬号に詳細を掲載)

 親族で意見合わず

 お墓の引っ越しに関連しては、「骨壺の一部だけを改葬する」方法や「分骨」をめぐるトラブルも起きている。親族、兄弟姉妹などの意見がまとまらないことが原因だ。

 1人の遺骨を複数の場所で供養する「分骨」に関しては、「バラバラになることへの反発」がある一方、「いろいろな人が供養するのが良いこと」といった感情の違いがトラブルになることもあるようだ。

 世界で一番多く分骨がされている人は仏教の祖である釈迦とみられる。法隆寺の五重塔など各地にある仏塔は釈迦の骨(仏舎利)の上に建てられているというのが建前だ。

 檀家と寺の関係希薄化の表れか

 改葬の手続きを進める際、どうしても必要となるのが「改葬許可申請書」に引っ越し元の墓の管理者(宗教法人)の署名・捺印(なついん)をすることだ。ほんの一部ではあろうが、「金を払わなければ判を押さない」とする寺がある。

 離檀料という言葉が広がったのはほんの4、5年ほど前。静岡県に寺を持つ曹洞宗の若手住職が「600万円だとか、メチャクチャで話にならない」と前置きしながら、こう解説する。

 「寺も檀家に抜けられると経営に影響する。寺の維持に関して他の檀家さんの負担が大きくなることにもなる。それまでは、檀家を抜ける側も『長いことお世話になりました』と、若干の布施を置いていく感覚があったと思う。でも、寺と檀家の関係が薄れてしまったため、そんな阿吽(あうん)の呼吸がなくなった。だから『離檀料』なんていう、いかにも払わなければいけないような言葉が出てきたのではないか」

 「檀家としっかりした関係を築いてこなかったのだから、離檀料なんていったらトラブルになるのは目に見えている」。この寺では離檀料はもらっていないという。「やせ我慢という気持ちもある。でも、ありがたいことに、寺を離れるときに(閉眼)法要の布施を置いていってくれる人もいる」と話す。

 国内の主要な伝統仏教教団で組織する全日本仏教会の広報部では「代々受け継いできた墓を守りにくい時代となっており、改葬が注目されている。檀家と寺との関係ができていれば『離檀料』という言葉を使わなくても、『お世話になった』という気持ちを互いに表せるのだと思う。檀家と寺に温度差があるために、問題が起きているのではないか」と話している。

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