ニュースカテゴリ:暮らし
生活
『割烹着リケジョ』と『偽ベートーベン』…「物語」重視報道の是非
更新
新型万能細胞「STAP細胞」の作製に成功し、一躍時の人となった理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方(おぼかた)晴子・研究ユニットリーダー。だが、報道があまりにもその「人となり」に集中しているとの批判が噴出した。直後に発覚した作曲家の代作事件と合わせ、内容より「物語」に注目する報道の是非が議論されている。
「一晩中泣き明かした30歳若手女性研究者と書く我が国にはゴシップ新聞しかないらしい」
小保方さんをめぐる報道について、英国在住のコンサルタント、谷本真由美氏が1月31日にウェブメディアに寄稿した前記見出しの記事は、「発見そのものに関する説明は控えめで、業績には関係のない情報ばかりが報道されています」と日本の新聞を強く批判。ツイッターを中心に大きな反響を呼んだ。
「日本の一流メディアは、なぜこのような報道をするのでしょうか?」「こういう日本の面を思い出すときは日本滅びろって思う。なぜ本質を報道せず私生活や苦労話を載せるのかへどが出る」と熱烈な賛同を集める一方で、「(各紙の)本記は研究内容。サイドストーリーとして人物像を書いているが、その是非ならともかく、研究内容を報じてないというのはデタラメ」「(海外紙と比較し)日本人の偉業だから、日本の主要紙は研究の背景・経緯・中身・解説やら小保方博士の人物像やら、多大なリソースを割いて紹介している」と事実認識を中心に批判も多く、議論は紛糾している。
小保方さんをめぐる記事では、研究に使われた割烹(かっぽう)着や、プレゼン時の衣装、卒業文集の中身までも報じられた。物事を論じるとき、主体の「人となり」ではなく、純粋に仕事の中身のみを見るべきではないか。こうした問題提起は、2月に入って発生した「現代のベートーベン」こと佐村河内守(さむらごうち・まもる)氏の作曲代作騒動で、より大規模にあらわれた。
代作の発覚を受け、「今までやったコンサートでの感動、もとい金も返せ」(掲示板)といった怒りの反応が大量噴出。ネット通販サイト、アマゾンのソフト商品レビューでも酷評が相次ぐなど、作品への評価も地に落ちた。だが、「『誰が作ったか』というような事に左右されず音楽そのものを評価するべきです」と、曲そのものについては別に検討すべきだとの意見も根強い。
たしかに音楽自体を見れば、良いか悪いかという評価しかない。だが、良い作品が売れるとは限らないのは、音楽はもちろん小説などあらゆるコンテンツに共通する事情だ。作品が商品として流通するとき、誰が作ったかという「物語」は重要性を帯びてくる。代作や経歴の疑惑は、商品に付加された「物語」についての致命的な虚偽といえる。今回の騒動がここまで世の憤激を買ったのは、作品評価にとって「物語」がいかに大きく作用しているかの証左であるかもしれない。
マスメディアの価値判断についてよく言われる例えが、「犬が人をかんでもニュースにならないが、人が犬をかむとニュースになる」。「誰が」に注目し、掘り下げようとするのはメディアの本能ともいえるが、偏り過ぎれば業績や作品の価値判断が甘くなり、本末転倒の事態も生じかねない。メディアに多くの教訓を刻んだ2つの事案だった。(磨)
あらゆる細胞に分化する能力がある万能細胞の一種。弱い酸性溶液で体細胞を刺激して作製する。1月末、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子・研究ユニットリーダーらが、マウスを使って作製に成功したと発表した。iPS細胞と同じように再生医療への応用が期待されている。STAPは「刺激惹起性多能性獲得」の英語表記の略。