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1機で紀伊半島をカバーする「ドクターヘリ」 現状と今後の課題
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医師が乗り込み、患者の搬送中にも治療を行う「ドクターヘリ」 和歌山県のドクターヘリが昨年、運航開始から10周年を迎えた。これまで事故や災害時などに重傷患者や急病者を迅速に搬送し、紀伊半島の救急医療に大きく貢献してきた。今年2月には和歌山市内で報告会を開催。ドクターヘリの現状や今後の課題に迫った。(益田暢子)
「ドクターヘリでなければ助からなかっただろう」。急性大動脈解離やくも膜下出血など実際に搬送した患者の症例を紹介しながら、篠崎正博・岸和田徳州会病院救命救急センター長が、そう力を込めた。
2月に和歌山県立医大で開かれた「ドクターヘリ運航10周年報告会」。県内の消防や医療関係者、共同でヘリを運用する奈良県や三重県の関係者ら約200人が参加した。
報告会では、ドクターヘリ導入に貢献した篠崎医師が記念講演を行い、導入までの経過を説明。平成23年の紀伊半島豪雨では、被災地の傷病者搬送など19件の出動があったことも紹介された。
医師がヘリコプターに乗り込み患者の搬送中にも治療を行うドクターヘリ。和歌山県は15年1月、全国7番目に運航を開始。国公立大学病院としては全国で初めて、県立医大付属病院に導入された。奈良、三重を含めた紀伊半島を1機でカバー。通常の半径50キロ圏ではなく、より広域な半径100キロを運航し、新生児・母体搬送や消防無線の搭載など先駆的な試みで注目されている。
県立医大のまとめによると、15年から24年までの総出動件数は3532件(出動後のキャンセルを除くと3444件)で、診療人数は計3475人に及ぶ。このうち、消防からの要請で交通事故などの現場に出動したのは全体の約75%。緊急を要する手術が必要な患者を他の医療機関から医大に運ぶなど、施設間搬送は約3割を占めた。
飛行は午前8時から日没30分前まで。飛行は天候に左右されるが、天候が良い時は、医大から同県新宮市の約100キロ間を離着陸を含め30分ほどで移動できるという。
6人乗りのヘリには操縦席に操縦士と整備士、後部に医師と看護師各1人が乗り、現場へ。医大には現在、13人のフライトドクターが常駐。出動要請が重複した場合には、21年に相互応援協定を締結した徳島県と大阪府のヘリがかけつけるという。
「和歌山のように道路環境が悪く、陸路搬送に時間がかかる地域にドクターヘリは必須」と話すのは、県立医大高度救命救急センターの加藤正哉センター長。「ドクターヘリのおかげで救命率が上がったという正式なデータはまだない」というものの、「ヘリがなければ助けられなかった」というケースは年に数回ある。
また現在は、屋上ヘリポートに照明がないため、夕方以降の要請が受けられないのが現状。夜間や悪天候の場合は救急車など陸路で搬送するほかなく、夜間飛行が実現できるように整備が求められる。
救急医療の一翼を担うドクターヘリ。今後も活躍に期待がかかる。