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【著者は語る】元日本原子力技術協会理事長・石川迪夫氏

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【著者は語る】元日本原子力技術協会理事長・石川迪夫氏

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 □「考証 福島原子力事故-炉心溶融・水素爆発はどう起こったか」

 ■福島事故をTMIの事例と比較、分析

 東京電力福島第1原子力発電所の事故の解明にあたっては、約40年前のスリーマイル島(TMI)原子力発電所事故の状況が参考になります。炉心溶融事故を起こしたTMI2号機では、炉心全てが原子炉容器の中に残っていました。ゆで卵のように殻に包まれて固化し、元の位置にとどまっていたのです。

 このような状況が生まれたのは、炉心溶融を起こした熱が、原子炉の崩壊熱ではなく、化学反応熱であったからです。燃料被覆管の材料ジルカロイは高温になると冷却水と反応して巨大な熱を出します。この熱によって燃料の一部が溶けて一種の合金をつくります。この合金が卵の殻のように炉心の保護膜となって、水との接触を遮断し反応を止めるとともに、殻の中にある燃料を崩壊熱で溶融させるるつぼとなったのです。

 福島事故はTMI事故と様相が似通っています。本書はTMIの故実を応用して福島事故で残されたデータと照合していますが、事故の進展経緯を論理的に説明できたと考えています。

 TMIと福島の事故状況の相違は、化学反応に必要な冷却水量の差にあります。TMIでは、高温の炉心に大量の水が瞬時に入ったのに対し、福島では消防ポンプによる少量の注水が長時間続きました。この差が福島事故を複雑にし、また炉心ごとに溶融経緯を変化させました。

 水とジルコニウムが反応すれば水素が残ります。この水素が原子炉建屋に出て、空気と混じり爆発を起こしたのです。反応は大変激しく、水素の発生も急激です。爆発時刻は炉心溶融の時刻とほぼ一致しています。

 このように事故経緯を解読している過程で、これまで語られていない新たな事実がいくつか導き出されました。

 中でも重要な事実は、故吉田昌郎所長が最後の手段として賭した原子炉の減圧・注水において、注水に時間の遅れがなかったならば、2、3号機は溶融爆発に至らなかったであろうということ、また格納容器の水を潜るベントは除染効果が大きいため、事故直後にベントを開いていれば、近隣住民の避難は必要なかったことです。これらの事実を、今後、原子力の安全向上に生かしてほしいと思います。(3240円 日本電気協会新聞部)

                  ◇

【プロフィル】石川迪夫

 いしかわ・みちお 1934年生まれ。東京大学工学部卒業後、日本原子力研究所で動力試験炉「JPDR」の建設、運転、廃炉を手がけ、その間安全性研究に従事。北海道大学教授を経て、2005年日本原子力技術協会理事長に就任。東日本大震災当時は最高顧問を務めており、福島事故について自ら海外に出向き情報を伝えた。政府や国際機関など、原子炉の安全についての多数の委員を歴任してきた。

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