実際のエンジンの音ではない
BMWが開発したレンジエクステンダー(ガソリンエンジンを発電機とし、蓄えた電気だけで走るクルマ)は、まるでV型8気筒ガソリンエンジンのような勇ましい音がした。といっても、実際のエンジンの音ではなく、シンセサイザーのように意図的な細工によって響かせているのだ。搭載するのは直列3気筒エンジンである。
ジャガーのI-PACEなどは潔い。搭載する動力源は100%EVモーターなのに、排気音は獰猛な武闘派スポーツのようである。というのもそれは、「アクティブサウンドデザイン」と呼ばれる手法で、シンセサイザーが作り込んだサウンドをスピーカーから流す。アクセル開度と連動しているから、ともすればリアルなサウンドに聞こえなくもないという凝りようだ。
あくまで疑似的なサウンドだから、調整は自由自在だ。音質も任意に選べるのである。EVなのに、聞こえるはずもないガソリンサウンドが響くことに違和感があったものの、それも走り出して数分のこと。次第に受け入れてしまっている自分に気付いた。
ちなみに、車内ではゴウゴウと勇ましく吼えていながらも、外にはいっさい響かない。というのも、車内のスピーカーから流しているだけだからである。
いずれEVモデルは、どんなサウンドを響かせるのかを選択する時代になる。ピアノの調べ…、ハードロックのシャウト…、仔猫の鳴き声…。これからはクルマはどんどん楽器になっていく。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。