そもそも、先行予約した数年前には、販売価格も決まっていなかった。というよりもさらに、クルマの性能もサイズも案内がなかった。鬼才イーロン・マスクがモデル3の生産を開始するとのアナウンスがネット上を駆けめぐったが実態は薄っすらとした影でしかなく、霞の彼方で走っているだけだったのだ。
たびかさなるテスト中の事故が報道されたり、生産が極端に遅れているとの発表があったり、あるいは、まずはアメリカから販売を開始し、日本へのデリバリーはいつになるか予想できないとさえ伝えられていた。それでもなんの音沙汰もなく待たされたのである。
EVは「走るスマホ」
ある日なんとなくスマホを眺めていると、モデル3が納車された様子をアップした記事が目に飛び込んできた。
「えっ、日本デリバリー開始したの?」
いやはや、ようやく日本での供給が始まったというのに先行予約した客をここまでフリーにできる自動車メーカーも稀有である。怒りを通り越して、呆れ返ったというのが正直な感想である。
ともあれ、これこそがイーロンが首謀するテスラの販売手法であると思うとそれも納得する。EVをクルマとしてではなく「走るスマホ」と認識しているイーロンは、輸入代理店をも不必要だと公言する。そこにはコストが発生する。ショールームは直営店であり、セールスではなく納車等の手配をするセクションとして割り切っているようである。
なるほど一利ある。EVを走るスマホだとする考えを聞けば、淡白な販売手法も新時代的なのだろうと思う。革命である。それが日本で通用するかどうかを見守りたい…。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。