政治利用には都合いい
トランプ大統領がデイトナ500のサーキットに顔を出したのは、呑気にレース観戦するためではなく、地方遊説が目的である。時にアメリカは11月に大統領選挙を控えている。民主党は候補者選びの最中だ。その候補者選びに水をさすように、トランプ大統領は戦略的に遊説の場としてデイトナ500を選んだことになる。
NASCARは特に、アメリカ南部で人気が高い。ニューヨークのある東地区やカリフォルニアのある西地区よりも、トランプ支持者の多い地域で人気が高いのだ。そこを遊説の地として選んだ。共和党が票田として大切にしてきた地区でもある。
デイトナ500が開催されるのは、フロリダ州のデイトナサーキットである。NASCARの統括本部はフロリダ州デイトナビーチにある。安倍晋三首相とゴルフを楽しんだトランプ大統領の別荘地、マー・ア・ラゴもフロリダ州にある。NASCARファンの8割は白人というデータもある。NASCARを政治利用するには都合がいいのである。
ここでトランプ大統領は、防弾装備の充実したキャデラックの大統領専用車「プレジデンシャル・リムジン」でレーシングカーを先導した。そしてレーススタートを宣言する。「スタート・ユア・エンジン」-。これはすなわち、トランプ氏が使用するスローガン「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」と叫んだに等しいのである。
モータースポーツが政治利用されることを、両手で歓迎する気にはなれないが、一方で、政治利用の対象になるほどにモータースポーツが国民に浸透していることには憧れを覚える。そして同時に、トランプ大統領陣営の、そのしたたかな戦略に戦慄を感じた。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。