教育・子育て

全席撤去や「電子図書館」の拡大も 変わるコロナ後の図書館

 存在感上昇

 図書館や美術館などの支援活動を行う有志団体「save(セーブ)MLAK(ムラック)」の調査では、5月5、6日の時点で全国の公共図書館など1692館のうち92%が休館措置を取り、自由な利用が制限される事態となった。

 公立図書館長の経験もある奈良大の嶋田学教授(図書館情報学)は「公共図書館は、子供から高齢者まで幅広い年齢層にサービスを行っており、影響も各世代に及んだ。休館したことで、改めてその存在感が浮かび上がったのでは」と指摘する。

 その上で、コロナウイルス感染拡大を経験した後の図書館のあり方について、自宅に居ながら図書館の資料がタブレットやスマホで閲覧できる電子図書館の拡大などをあげる。経費や提供コンテンツをいかに増やすかといった課題もあるが、「普及すれば、平時においてもさまざまな事情で来館が困難な利用者へのサービスが提供でき、さらに図書館利用者が増加するのでは」と期待する。

 感染拡大の第2波到来などで再び休館を余儀なくされても市民に必要なサービスを提供できるか。図書館の新たな準備は急務となっている。

 プライバシーと公益性

 図書館のコロナ感染予防対策として公益社団法人「日本図書館協会」(東京)は5月14日にガイドラインを出した。その中で、来館者の健康状態の確認や検温を促すことに加え、「氏名と緊急連絡先を把握し、来館者名簿を作成」と示したことが波紋を広げた。

 来館者名簿の作成は、感染者が発生した場合に接触した人の特定がしやすくなる一方、図書館関係者からは利用者のプライバシー保護の観点から疑問の声が上がった。日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」では、「読書記録以外の図書館利用の事実に関しても、利用者のプライバシーを侵さない」と定められているためだ。その後、「実施を検討する事項」に修正された。

 実際、ガイドラインに沿って名簿を作成した図書館は多くないとみられる。一方、感染拡大防止対策として、大阪市立図書館では、大阪府が独自に運用する感染者の発生をメールで伝える「大阪コロナ追跡システム」の利用を促して、名簿作成の代わりとする。

 奈良大の嶋田学教授は「来館情報というプライバシーの保護とコロナの感染者が発生したときの対応はともに公益性の高い問題。来館者の把握が防疫上不可避な対応なのかをよく検討し、実施に際しては利用者に丁寧に説明することが必要だ」と指摘する。

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