電気モーターのない水素燃料自動車
マシンは「カローラ」をベースとした競技車両。トヨタは水素燃料車の「ミライ」を発売しているが、ミライは純粋な水素燃料車であり、充填した水素と大気中の酸素を化学反応させた発電、電気モーターで駆動するタイプだ。それに対して今回参戦する水素マシンは、これまでの内燃機関に注いでいたガソリンをそっくり水素に変えて燃焼させるシステムである。だから内燃機関を搭載していながら、電気モーターのない水素燃料自動車なのである。走行中には二酸化炭素をほぼ100%排出しない。また新たな動力源の可能性を示そうとしているのだ。
もっともミライの技術が余すことなく活用されていることは明らかだ。24時間を通じて戦うことになる耐久レースであることから、途中に度重なる給油が必要となる。その際の水素充填システムもミライからの応用であろうし、搭載する水素タンクもミライのものだという。
実はこのレースには僕もライバルマシンで参戦するのだが、すでに行われたトヨタの公式テストではその走りの確かさをコース上で確認している。ガソリンエンジン搭載マシンと遜色ない走りを披露していた。
懸案である安全性の問題もクリアになりつつある。レースである以上、クラッシュの可能性も無視できないが、たとえばマシンが粉々になるような強い衝撃を受けても水素タンクは破裂しないという。安全性は確認できているのだ。そうでなければ、地位も名誉もある豊田社長が自らステアリングを握ることなど考えられない。
ともあれ、5月末に開催される富士24時間耐久レースに注目が集まる。新たな動力源としてのアピールの場になりそうだ。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。