まさかの法的トラブル処方箋

“監視”付き面会の法整備で奪われる「愛される権利」 家族法改正議論に違和感

上野晃
上野晃

 奪われる「子供が親から愛される権利」

 こうした噂がもし本当なのだとしたら、私はそうした方向、つまり「監視付き面会」を法的に整備することで面会交流を実施していくことを原則とする方向での議論には断固反対します。その議論の進め方は、原則と例外が逆転しているのです。

 先ほどのイギリスの例を思い出してください。別居親と子供がごく自然に交流するのは当たり前のことで、イギリスはそれを実現しています。他の先進諸国も同様です。もちろん、中には事件も起きることだってあるでしょう。しかしそれは、夫婦が同居している中で起きることだってありますし、夫婦が別居してシングルマザーが子供を虐待することだってあります。

 また、シングルマザーの交際相手が子供を殺害することだってあるのです。これらすべてのパターンにおいて一切の事件を防止しようとすれば、生まれた子供は、すべて国が特別な施設で管理して国の責任で養育していくほかないということになります。これが馬鹿げていることは誰だって分かるでしょう。

 一部の反社会的な人間については、警察権力を有効に使う法制度を作るなどして対策すべきですが、それをもって、世の中の多くの別居親が子供と会うことに不自由を強いられることは、別居親の人権上問題があるばかりか、子供が親から愛される権利を奪うことになります。国は、今一度、子供の福祉とは何かという、基本のテーマに立ち返って、議論を進めてほしいと心から願います。

 次回もこの法制審議会に関する私の「違和感」についてお話いたします。

神奈川県出身。早稲田大学卒。2007年に弁護士登録。弁護士法人日本橋さくら法律事務所代表弁護士。夫婦の別れを親子の別れとさせてはならないとの思いから離別親子の交流促進に取り組む。賃貸不動産オーナー対象のセミナー講師を務めるほか、共著に「離婚と面会交流」(金剛出版)、「弁護士からの提言債権法改正を考える」(第一法規)、監修として「いちばんわかりやすい相続・贈与の本」(成美堂出版)。那須塩原市子どもの権利委員会委員。

【まさかの法的トラブル処方箋】は急な遺産相続や不動産トラブル、片方の親がもう片方の親から子を引き離す子供の「連れ去り別居」など、誰の身にも起こり得る身近な問題を解決するにはどうしたらよいのか。法律のプロである弁護士が分かりやすく解説するコラムです。アーカイブはこちら

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