EV信仰へのアンチテーゼ
かくして挑んだ水素カローラは、排気量1.5リッター以下のクラスと対等なラップタイムで周回を重ねていた。GRヤリスの約10秒落ちである。搭載燃料の違いで、ライバルが1時間30分前後で燃料補給を繰り返しながらバトンをつなぐのに対して、水素カローラは約25分前後でピットインを繰り返し、水素燃料を充填していく。走りそのものは内燃機関のそれである。排気音もするし、回転の上昇に比例して速度を高めていく。
実際に筆者も、BMW・M2CSレーシングでこのレースに参戦しており、コース上でたびたび水素カローラと並走している。印象としては、ごく自然な走りである。とても走行中に二酸化炭素を一切排出していないとは思えない。EVでは想像もできない走行リズムなのだ。
今回のルーキーレーシングのプロジェクトは、カーボンニュートラルへの可能性の模索である。やみくもなEV信仰へのアンチテーゼ、水素を燃料とした内燃機関の可能性の高さを示したという点で、今回の参戦は意義のあるもののように思える。
レースがスタートして24時間後、チェッカーフラッグを潜る水素カローラの姿があった。初参戦で初完走。可能性を突きつけられた思いである。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。