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【勿忘草】サッカー愛
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ドローではあったものの、サッカー日本代表は、6月4日に行われたオーストラリア戦で来年ブラジルで開催されるワールドカップへの出場を決めた。翌日のニュースは、日本中が歓喜に沸いた様子を映し出していた。
対オーストラリア戦といえば、苦い思い出がある。2006年のドイツワールドカップ、グループリーグで日本がオーストラリアと戦った日は、ちょうど私の誕生日だった。「誕生会を開いてやる」と言われ、喜々として指定された店に行ってみると、会場のムードは誕生会ではなく、観戦一色に。参加者は主賓のはずの私には目もくれず、テレビに熱視線を向けていた。
途中まではよかった。中村俊輔の先制ゴールでそのまま勝利するのではないかというムード。しかし後半、逆転されてしまった。「誕生会」の参加者は落胆し、店員さんが運んできてくれたケーキすら食べられる様子ではなかった。これまでで一番悲しい誕生日だったといえるかもしれない。
サッカー観戦はどうしてここまで人を熱くするのだろう。学生時代に滞在していたドイツは、ワールドカップ期間中、まさに国を挙げて熱中していた。ちょうど、日韓ワールドカップの年をドイツで過ごしたが、自国の試合があると、学生たちは講義を休んだ。あまりサッカーに興味がなかった私に「君にとって重要な試合だろう」と、講義を休むことを勧める友人もいた。
ドイツ戦があるときは、バスのなかでも、ラジオを流して試合を聞いていた。相手が点を決めると、運転手はハンドルを殴りつけ、悔しがる。危うく前の車に追突しそうになるほどだった。得したこともある。日本がトルコに負けた日、街にあったトルコ料理屋に行ってみると「きょうはありがとう」と紅茶をサービスしてくれたのだ。ふだん話をしない人とも、その日あった試合を話題にすれば、会話が弾んだ。サッカーは最高のコミュニケーションツールだった。
オフサイドも知らなかった私だが、サッカーを愛する人々の洗礼を受け、いまでは観戦を楽しめるところまで成長した。来年はどんなドラマが待っているのだろう。また、どんなファンに会えるだろう。いまから楽しみで仕方がない。(佐々木詩/SANKEI EXPRESS)