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「合意覆すな」 元露駐日大使のメッセージ

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「合意覆すな」 元露駐日大使のメッセージ

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 【佐藤優の地球を斬る】

 ビザなし交流の日本代表団が7月7日、北方領土・色丹島を訪問した際に、穴澗(あなま)村のセディフ村長が、「7月15日にプーチン大統領が南クリル(北方領土に対するロシア側の呼称)に来ることになっている。もしも色丹に来たら、花束を持って迎える」と述べたことが、日本のマスメディアで報道された。

 クレムリン(露大統領府)は、この報道に直ちに反応し、翌8日、ペスコフ大統領報道官が、プーチン大統領は来週、サハリン州に出張するが、北方領土を訪問する予定はないと明言した。

 リーク文化に苦言

 この件に関して11日、露国営ラジオ「ロシアの声」(旧モスクワ放送)が北方領土問題にかかわる興味深いシグナルを送ってきた。その中で重要なのは、アレクサンドル・パノフ元駐日大使の以下のコメントだ。

 <モスクワで先頃、プーチン・安倍会談が行われ、そこでは平和条約交渉を再開することで合意がなされました。ロ日のどちらの側も、この交渉をめぐる雰囲気を感情的で興奮した、ましてネガティブなものにしたいとは思っていません。まさにそれゆえに、日本外務省や首相官房の側から、プーチン大統領のクナシリ訪問に関するうわさについてのいかなるコメントも出されなかったのです。出したのはマスコミであり、彼らは彼らであり、そうした情報が好きなのです>(http://japanese.ruvr.ru/2013_07_11/117660390/

 パノフ氏は、今回の騒動に日本政府や首相官邸が関与していないことを強調した上で、北方領土交渉に関する日本のリーク(情報漏洩(ろうえい))文化について苦言を呈する。

 <残念ながら、日本では、交渉の過程あるいは新しい提案をマスコミに漏らすという傾向があります。これまでのことを見る限り、そうした漏洩は否定的効果しかもたらしませんでした。なぜなら、そうした漏洩をまず利用するのは、そもそも領土問題に関するロ日間の合意に反対する人々だからです。そうした勢力は、日本だけではなく、ロシアにも、さらには第三国にも存在しています。(中略)もちろん、通常、交渉に参加するどちらの側も、自分たちの国益を損なうような譲歩をしたりはしません。しかし、お互い何らかの歩み寄りをする可能性はあります。そのために、外交官にもまた政治家にも、少なくない勇気が求められます。2001年イルクーツクでのプーチン・森会談で、双方は、南クリルの4島同時返還という強硬な要求を棚上げすることで合意に達しましたが、その後、森氏も交渉に参加した日本の外交官たちも、国益を損なった裏切り者として非難されました。森氏は首相を辞任し、日本政府は再び従来の強硬路線に戻り、その結果、平和条約と南クリルに関するロ日交渉は、10年以上に渡り凍結してしまいました。そして今、日本側の立場が再びより柔軟になるのではないかという希望が見えています。しかし、交渉が成功のチャンスを持つためには、マスコミが『情報を投げ込むこと』で交渉に影響がでないようにすべきだと思います>(同上)

 交渉前に「安心」要求

 4月29日にモスクワで行われた日露首脳会談で、安倍晋三首相が01年3月のイルクーツク声明を基礎に平和条約(北方領土)交渉を行いたいと述べたのに対して、プーチン大統領は反応しなかった。パノフ氏は、イルクーツク声明を策定した際のロシア側責任者で、現在もロシアの対日政策に無視できない影響を与えている。パノフ氏はこのコメントを通じて「イルクーツク声明の合意がその後、日本側によって反故にされた。今回も同じようなことが起きるとプーチンのメンツが完全に潰される。合意をあとで覆すようなことが起きないとロシア側を安心させることが焦眉の課題だ」というメッセージを安倍首相官邸と外交当局に送っているのだと筆者は解釈している。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優/SANKEI EXPRESS

露国営ラジオ「ロシアの声」(旧モスクワ放送)

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