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カラッと上品な串揚げ 熱々はふはふ 洋燈館 楽珍
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パン粉をつける前の具材の数々。ウズラ卵にベーコンを巻いたもの、ぎんなん、シイタケの肉詰めなど25種類のコース。ていねいに下処理された具材が、味や食感にリズムとハーモニーをかもし出す
京都の繁華街、祇園と烏丸の間にありながら、町屋が並ぶ蛸薬師通に、串揚げ料理「洋燈館(らんぷかん) 楽珍(らくちん)」はある。その名の通り、静かな町並みに溶け込んだレトロなれんが造りのお店は、ステンドグラスがふんだんに使われ、いかにもランプの温かみが似合いそうだ。しっとりと落ち着いた店内も大人の雰囲気が漂う。厳しい古都の夏、店主自ら揚げてくれる串揚げをはふはふとほおばると、ビールがすすむこと請け合いだ。
「舞妓さんがおちょぼ口で食べられるよう、全体に小ぶりに仕立てていますから、女性好みのはずですよ」と2代目店主の森信弘さん。
1本目は、定番の豚ヒレ肉をさっと揚げてお皿に。香ばしいパン粉の香りを堪能した後、そっとソースをくぐらせて一口。豚ヒレ肉の軟らかさに思わず舌鼓を打つ。また、夏の京都に欠かせない食材を使った「鱧(はも)の紫蘇巻き」は、歯触りと香りの絶妙な組み合わせに笑みがこぼれる。万願寺唐辛子を輪切りにして、刻み生姜と鶏ミンチを射込んだ(詰め込むこと)「万願寺唐辛子とピリ辛ミンチ詰め」も上品な一口サイズ。
どれも二度びきされたさらさらのパン粉をくぐらせ、牛脂で揚げられたとは思えぬほどカラッとしていて、胃もたれせずに食べ進むことができる。
揚げ場をのぞき込むと、大きな換気扇の下にはフライヤーではなく、大きな寸胴鍋に油がたっぷり。190度の高温でさっくりと上がるように、ガス火を巧みに操る森さん。「油が酸化しないよう、開店の40分ほど前から火を入れて、じっくりと油を温めるんです」とつぶやくように話す。下ごしらえは昼から始まり開店時間まで、約5時間ほどかかるという。
続いて小芋に海老が射込まれた細工もの、タコとキュウリ、子持ちイカと出てきた後の、バナナや蜜で煮込んだサツマイモの串は、デザート感覚の甘い味。揚げ物続きでも飽きさせない組み立ての工夫が光る。
先代が1974年に祇園に店を構え、後に仕入れ先の錦市場近くのここ、蛸薬師に店を移したのが27年前という。「何より新鮮な食材がいつでも手に入りますから」と森さん。たとえば野菜は、錦市場の「京野菜 かわまき」から仕入れている。串揚げに添えられるキャベツ、キュウリ、ニンジンスティックなどは、かじると自然の甘さを感じることができる。
卵は同じ錦市場の「田中鶏卵」。年末に長蛇の列が出来る「出し巻き玉子」で有名な店だ。ここの地卵で生地を作ると、ふわっとした口当たりに仕上がるのだとか。また、ここで仕入れたウズラの卵が、串ネタとして出てくるのを待つのも楽しみだ。食材の特徴を生かした丁寧な下ごしらえが、味や食感にリズムとハーモニーを与えている。
串カツといえば大阪。ガード下や地下街で、立ち飲みのおっちゃんたちがほおばっていたり、子供らがお小遣いを握りしめて買いに行く庶民の味だ。カウンターには大切りのキャベツが盛られ、大きなソースの器には、決まり文句「二度づけ禁止」の貼り紙が。
所変われば品変わる、というのはこのことだろうか。一見、バーのような雰囲気の「楽珍」は、熱帯魚が優雅に泳ぐ高級感あふれる店内。ひいき筋の旦那衆と訪れるのであろう、舞妓や芸妓の京うちわが壁にずらっと飾られている。
近くの店主や地元の食通たちが訪れるという、知る人ぞ知る名店。次に訪れたときは、舞妓さんのおちょぼ口が見られるかもしれないと、期待が膨らんだ。(文:木村郁子/撮影:恵守乾/SANKEI EXPRESS)