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靖国めぐる「熱狂と偏見」消えず 閣僚3人参拝 超党派は倍増102人

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靖国めぐる「熱狂と偏見」消えず 閣僚3人参拝 超党派は倍増102人

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 安倍晋三首相(58)は終戦の日の8月15日、東京・九段北の靖国神社への参拝を見送り、自民党総裁として私費で玉串料を奉納した。閣僚では新藤(しんどう)義孝総務相(55)、古屋圭司(けいじ)国家公安委員長(60)、稲田朋美行政改革担当相(54)の3人、自民党幹部では野田聖子総務会長(52)、高市(たかいち)早苗政調会長(52)らがそれぞれ参拝した。

 超党派の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」(会長・尾辻(おつじ)秀久元参院副議長)で参拝した議員は高市氏を含め102人で、昨年の55人を大幅に上回った。日本(にっぽん)維新の会の石原慎太郎共同代表(80)と自民党の小泉進次郎青年局長(32)が個別に参拝した。

 首相は記者団に対し、玉串料について「国のために戦い、尊い命を犠牲にされたご英霊に対する感謝の気持ちと尊崇の念の思いを込めた」と述べた。自身の参拝については「参拝すること自体が政治問題、外交問題に発展していくという観点から申し上げない考えだ」と答えた。

 68回目の「終戦の日」を迎えた15日の靖国神社は、民主党政権時代に目立った政権批判は影を潜めた。正午の黙祷(もくとう)時には静寂に包まれ、落ち着いた「祈りの場」に立ち返っていた。

 「安倍首相も正々堂々、お参りになる日を切に願っている」

 境内で開かれた戦没者追悼中央国民集会で、日本(にっぽん)会議の三好達(とおる)会長(85)=元最高裁長官=がこう述べると、会場からは拍手が起きた。

 ただ、昨年は「この国はまさに暗雲が漂っている」と焦燥感をあらわにした「英霊にこたえる会」の中條高徳会長(86)は「この国の行方が見えてきたのはうれしい」と安倍政権の今後に期待感を示した。

 一方、今回の集会で衛藤晟一首相補佐官(65)は環境整備の必要性を強調した。

 「他国からいろいろ言われることなく、ちゃんとお参りできる国をつくりたい。これができなければ戦後は終わらない」

 首相、思い変わらず

 首相はこの日、自民党総裁として私費で玉串料を奉納した。代理奉納した自民党の萩生田光一総裁特別補佐(49)は記者団に、首相に託されたこんな伝言を明かした。

 「先の大戦で亡くなった先人の御霊(みたま)に、本日は参拝できないことをおわびしてほしい。靖国への思いは変わらないと伝えてほしい」

 首相は、中国、韓国のみならず同盟国の米国も巻き込んで外交問題化する15日の参拝は選ばなかったが、在任中に参拝する意向は変わらない。

 靖国参拝が政治問題化するのは中韓だけが問題なのではない。日本国内の一部勢力が火に油を注いできたのも否めない。

 例えば中江要介元中国大使(90)は2000年4月に国会で、1985年12月に中国の胡耀邦総書記(97)=当時=と靖国問題を協議した際のエピソードを証言している。85年8月15日に中曽根康弘首相(95)=当時=が公式参拝したのをきっかけに、日中関係が冷え込んでいたころだった。

 胡氏「もう靖国神社の問題は両方とも言わないことにしよう。85年でも100年でも騒がずに静かにして、自然消滅を待つのが一番いいじゃないか」

 中江氏「もし今黙っちゃったら、日本では『ああ、もうあれでよかったんだ』と思ってしまう人が出るかもしれない」

 背中から矢を射る

 冷静になろうと努める中国側を、むしろ日本側がたきつけているような構図だ。時の首相がいかに真摯(しんし)に戦没者の慰霊と追悼の意義や正当性を訴えようと、背中から矢を射る勢力が幅を利かせていては事態はなかなか改善できない。

 靖国神社境内には、東京裁判で被告全員無罪を主張したインドのラダ・ビノード・パール判事(1886~1967年)の顕彰碑があり、パール判決文(意見書)を引用した次の碑文が刻まれている。

 《時が熱狂と偏見とをやわらげた暁には また理性が虚偽からその仮面を剥ぎとった暁には その時こそ正義の女神は その秤(はかり)を平衡に保ちながら 過去の賞罰の多くに そのところを変えることを要求するであろう》

 残念ながら、靖国をめぐる国内外の「熱狂と偏見」はまだやわらいではいないようだ。(SANKEI EXPRESS

 ≪中国 大使呼び「強烈抗議」≫

 中国外務省の劉振民次官は8月15日、木寺(きてら)昌人駐中国大使を外務省に呼び、新藤(しんどう)義孝総務相ら日本の閣僚が靖国神社を参拝したことについて「強烈な抗議と厳格な非難」の意思を表明した。また洪磊(こう・らい)報道官も談話で「歴史の正義や人類の良識に対する公然たる挑戦で中国などアジア諸国の被害国民の感情を著しく傷つけるものだ」と非難した。中国当局はこれまで日本の首相、官房長官、外相の靖国参拝について自粛を求めてきたが、閣僚の参拝には強く抗議していない。(北京 矢板明夫/SANKEI EXPRESS

 ≪韓国「国際社会が深刻な懸念」≫

 韓国外務省の趙泰永(チョ・テヨン)報道官は8月15日、新藤(しんどう)義孝総務相ら日本の閣僚や国会議員が靖国神社を参拝したことについて「極めて嘆かわしい」と非難する論評を出した。論評は「韓国や国際社会が深刻な懸念を示している」と指摘。靖国神社が「帝国主義の歴史を美化している」と決めつけ、日本の政治家や閣僚が「依然として歴史から目を背けていることを表している」と批判した。(ソウル 加藤達也/SANKEI EXPRESS

 ≪台湾「近隣の国民感情害する」≫

 台湾の外交部(外務省に相当)は8月15日、新藤(しんどう)義孝総務相らの靖国神社参拝を「近隣国家の国民感情を害する行為」として批判。「責任ある態度で周辺国との友好関係を発展させるよう」日本政府や政治家に呼びかける声明を発表した。(台北 吉村剛史/SANKEI EXPRESS

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