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落とし穴は足元の党内に

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落とし穴は足元の党内に

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 【安倍政権考】

 参院選後の政界は、「自民党1強」の様相となり、安倍政権の視界はこの上なく良好のようにみえる。ただ、思わぬ落とし穴にはまるケースがままあることも、自民党の歴史は教えてくれている。国民の支持を保ち続けるのは、いかにも難事といってよく、安倍晋三首相(58)には、その在任期間中、粉骨砕身の覚悟を求めたい。

 政権が危うい情勢になるときは、内閣支持率の低落や不祥事などによる閣僚の辞任、そして経済政策の失敗などが先行指標のように表れてくる。安倍政権はどうかといえば、今のところ、そんな懸念はみじんもない。

 報道各社の世論調査でも、内閣支持率は5割前後と高位安定を維持しており、危険水域とされる3割台への突入など考えられないようである。閣僚の辞任もない。経済も首相の経済政策「アベノミクス」による日銀の大胆な金融緩和、機動的な財政出動が奏功し、内閣府が発表した今年4~6月期の国内総生産(GDP)の一次速報も、3四半期連続でプラスとなった。

 過去にも「自民1強」

 こう順風満帆では、おのずと長期政権が視野に入ってくる。自民党総裁の任期を迎える2015年9月の総裁選で再選を果たし、16年夏の参院選、16年末に任期切れを迎える衆院選を乗り越えれば、2期6年にわたり、政権運営を担えるというわけだ。

 ところで、今ほどの議席数ではないにしても、「自民党1強」と評された政治情勢が過去にあった。自社さ政権下で行われた96年の衆院選では、社民、さきがけが、それぞれ15議席と2議席に大幅に議席を減らす中、自民党だけが239議席を獲得した。一方、野党第一党の新進党も振るわず、156議席にとどまった。

 ときの首相は橋本龍太郎氏。橋本氏が佐藤栄作元首相を「政治の師」と仰いでいたことから、「師を超えるのでは」などと現実味をもってささやかれていた。

 ところが、である。橋本氏の金看板だった行政改革が党の抵抗で骨抜きとなり、景気対策の名目で党側からの財政圧力が高まり、政権運営がギクシャクし始める。何よりも、97年の内閣改造では、起用した閣僚が十数日で辞任し、支持率が一気に低落。そのまま政権浮揚を果たせず、98年の参院選に惨敗し、あえなく表舞台から退いた。

 「10月危機説」の声

 してみると、まるで死角がないような安倍首相にしても、いつ何時、橋本元首相の二の舞にならないともかぎらない。当面の政治課題に照らせば、今秋に判断するとしている来年4月の消費税増税と、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉などが難事であり、政界では「10月危機説」を唱える向きさえある。

 「消費税増税にしても、TPPにしても、党内の反対派の不満はくすぶっている。強引さが目につくようになると、一気に火がつく」

 自民党関係者はこんな見立てをする。2014年度の予算編成で公共事業などの「裁量的経費」をめぐる“獲得合戦”も水面下で激しさを増していて、「参院選で支援してくれた業界団体に借りを返す必要がある」(自民党関係者)という。旧来型の自民党政治が徐々にだが、確実に強まっている。

 「古い自民党に逆戻りすれば直ちに、自民党への国民の信頼は失われる」

 参院選大勝後の党内情勢を見越すように、首相は7月22日の記者会見で、こうクギを刺すのを忘れなかった。どうやら首相の政権運営を脅かす要因は、足元の党内にあり、どう処するかが政権の行く末を左右しそうだ。

 年内にも予定される内閣改造・党役員人事でまずいさばきをすれば、「いつか来た道」をたどる仕儀となる。(松本浩史/SANKEI EXPRESS

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