SankeiBiz for mobile

ロンドン五輪会場は今(下) 地図にない「東の端」気質はそのままに

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのスポーツ

ロンドン五輪会場は今(下) 地図にない「東の端」気質はそのままに

更新

ロンドン五輪のメーン会場となった東部の「イーストエンド」には、今も変らない独特な雰囲気がある=2013年、英国・首都ロンドン(ロンドン大学ゴールドスミス校、有志学生記者撮影)  【Campus新聞】

 華やかなオリンピックの中心会場となったロンドン東部だが、「イーストエンド」と呼ばれるこの地域は、19世紀ごろから貧困層が居住するエリアだった。20世紀初頭には、移民の流入で過密化が進み、不衛生な環境に加え、犯罪も多発していたという。

 1888年に起きた、あの有名な「切り裂きジャック」による連続殺人事件の舞台となったのも、イーストエンドだ。

 さらに工業地帯であり、ロンドン中の電気を賄う発電所が集中していたほか、廃棄物処理場などもあり、土壌汚染問題も深刻化していた。

 そんななか、イーストエンドが五輪のメーン会場に選出されたのは、こうしたさまざまな都市問題を五輪会場の開発によって解決することが最大の狙いだったともいわれている。

 「イーストエンドを地図に載せよう」。この地域がメーン会場として選出された当時に謳われていたキャッチフレーズだ。「東の端」と揶揄(やゆ)され、境界もなく、これまで放置されてきたこの地域を、五輪開催とそれに向けた開発によって、ロンドンの重要なエリアに飛躍させようという思いが込められている。

 ≪「The Olympic side of London」の監督、プロデューサーに聞く≫

 実際、どんな動きがあったのだろうか。五輪開催までの道のりを追ったドキュメンタリー映画「The Olympic side of London」(ロンドンのオリンピック側)を監督したダニエル・ルーゴ氏(30)と、プロデューサーのアビー・ウィーバー氏(26)にインタビューをする機会を得た。

 立ち退き要請

 両氏ともにロンドン東部の出身。2人がドキュメンタリーのテーマを決定したのは2010年。五輪がもたらす明るい未来を政府が人々に約束し、街は誇大宣伝であふれかえっていたという。そこで、2人は五輪の舞台となる土地とそこに住む人々に焦点を当てることにした。

 「何かが起こる『前』こそが、重要なのです。だからこそ、私たちは社会的、歴史的そして政治的な問題が絡まり合った、この複雑な地域が五輪に向けて変化していく様子を記録していこうと考えました」。両氏は、製作意図をこう説明してくれた。

 2012年になると、6月にエリザベス女王の即位60周年記念式典「ダイヤモンド・ジュビリー」に人々は心を躍らせ、間近に迫った五輪開幕に向け、ロンドン中が希望と興奮で盛り上がっていた。

 ルーゴ氏は「『National pride(国家のプライド)』が最高潮に達していたときだった」と振り返る。

 しかし、その裏では、五輪会場の開発に伴い、地元の会社や住民、スタジオを持つアーティストらに立ち退き要請が出され、多くの人が長年親しんだ土地を追い出されていたという。また、地域の住民が毎日のように利用する公園が取り壊され、集いの場が奪われた事例もあったそうだ。大規模な開発によって地域のコミュニティーが破壊されたという「負の側面」が存在したのである。

 「固定された景色だけを撮影するような、五輪のニュース取材班と同じ間違いを犯してはいけないと思った」と、ルーゴ氏。撮影する際は、常にカメラのアングルを少し動かすことを心がけたという。「わずかな想像力を持つことで、いろいろなものや人の存在がわかり始めるのです」と、彼は話す。

 人々の「鼓動」映す

 今まで地図上で認識されることはなかったイーストエンド。オリンピックは、開発による環境の改善とそれに伴う観光客の流入などを通じて、この地域を活気づけた。一方、ルーゴ氏とウィーバー氏のドキュメンタリーは、その土地の人々の「鼓動」を映し出すことによって、その存在を照らし出した。

 インタビューの最後に、ウィーバー氏が興味深いことを話してくれた。

 「再開発と五輪によって、ロンドン東部は確かに変わり、環境が改善された部分もあると思います。ですが、土地というものには、その場所特有の気質のようなものが染みついている。長いこと住んでいるのでわかりますが、何かが介入しても、独特の雰囲気や、そこに住む人々によってつづられた物語はしっかりと持ち続けていると、感じるんです」

 この街には、変わりゆくものと変わらないものが共存している。五輪を経験したこの街は、これからどんな風に呼吸していくのだろうか。(今週のリポーター:ロンドン大学・ゴールドスミス校 有志学生記者/SANKEI EXPRESS

 【編集後記】

 ロンドン五輪開催中に渡英し、その後、ロンドン東地区で学生生活を送っている。ロンドンという都市は目まぐるしく変化し、なかでもロンドン東部は、あらゆる場所が競うように発展を続けている。しかし、実際に歩き回ってみると、中心街のシティーとは異なる、独特の「匂い」が残っている場所がある。華やかな五輪の舞台となった街のもう一つの顔を伝えたいと思い、取材をした。(ロンドン大学・ゴールドスミス校 メディア・アンド・コミュニケーション研究科 清水美里)

 今回の取材で、オリンピックパークの見学ツアーの参加者たちの楽しそうな笑顔が印象に残っている。オリンピックは、閉会後もなお、人々に希望を与えるものなのだと実感した。日本は今、2020年東京五輪の実現に向け、盛り上がっているだろう。東日本大震災の傷跡から少しずつ回復している日本で、ロンドンの人たちに大きな希望をもたらした五輪が開かれることを心から願っている。(ロンドン大学・ゴールドスミス校 メディア・アンド・コミュニケーション研究科 岡田万梨恵)

 【関連記事】【Campus新聞】ロンドン五輪会場は今(上) 「近未来都市」建設中、市民心待ち

ランキング