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【Q&A】ヒッグス粒子にノーベル賞 質量の起源を解明

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【Q&A】ヒッグス粒子にノーベル賞 質量の起源を解明

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 今年のノーベル物理学賞は、物に質量を与えるヒッグス粒子の存在を予言した英エディンバラ大のピーター・ヒッグス名誉教授(84)と、ベルギーのブリュッセル自由大のフランソワ・アングレール名誉教授(80)に授与されることが決まりました。昨年、大型加速器による実験で存在が確認されたことが授賞を後押ししました。

 Q 質量って

 A 地球にいる私たちにとっては「重さ」と同じと考えていいです。

 Q 物には初めから重さがあるのでは

 A 宇宙が誕生した最初にはなかったと考えられています。ヒッグス粒子は、宇宙が始まったビッグバン(大爆発)の100億分の1秒後に生まれ、海の中の水のように空間を満たしたと考えられています。その前は、物質を構成する素粒子には質量がなく、光と同じ速度で動いていました。海の中を移動すると水の抵抗を受けるように、素粒子がヒッグス粒子の抵抗を受けて速度が遅くなった状態が「質量がある」ということです。

 Q そんなにたくさん周りにあるのに、なぜ見つかるのに時間がかかったの

 A もし海の中に生まれて水の中にすんでいたとしたら、水の存在に気付くのは難しいのではないでしょうか。さらに、ヒッグス粒子は普段から粒の形をしているわけではなく、空間に隠れています。姿を見るためには、小さな物質同士をぶつけて、宇宙誕生直後のような高いエネルギーの状態にする必要があったのです。例えるなら、海の水をたたきつけて海面に水しぶきを上げ、水滴を見たようなものです。

 Q どんな実験

 A スイス・フランス国境の地下にある1周27キロの大型加速器LHCを使いました。水素の原子核の陽子を光速近くに加速して互いにぶつけます。ヒッグス粒子が一瞬、姿を見せ、別の粒子に壊れて飛び散るのを、アトラスとCMSという2つのチームが検出器で詳しく調べました。

 Q 質量が生まれなかったらどうなっていたの

 A 私たちが「そこにある」と実感できるものの大部分は物質と呼ばれます。私たち自身を含めて動物、植物、石や土などは全て物質ですが、これらが宇宙に誕生しなかったことになります。物質は全て質量を持つのです。

 Q 宇宙には質量のないものもあるの

 A 一例として光があります。質量のないものは全て光速で移動します。そんなに急いで動いていたら、生命体のように集まって構造を作ることは難しいでしょうね。

 Q 物質の質量は全部ヒッグス粒子の仕業なの

 A 実は、ヒッグス粒子によって生み出される質量は、物質の質量の2%程度にしかなりません。まずクォークなどの素粒子にヒッグス粒子が絡んで質量が生まれ、それをきっかけとしてクォークの間で働く「強い力」などの別の仕組みで残りの質量が作られると考えられています。

 Q 今後の研究はどうなるの

 A ヒッグス粒子にはまだ分かっていないことが多くあります。さらに詳しく調べると、新しい理論が構築できる可能性もあります。ヒッグス粒子を見つけたLHCよりも、さらに強力な加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の構想もあり、岩手・宮城両県の北上山地が建設候補地に挙がっています。

 ≪家族思いで音楽と美術を愛す≫

 ピーター・ヒッグス博士は、生涯を過ごすことになる英エディンバラの街に、ロンドンでの学生時代にヒッチハイクで訪れ一目ぼれした。直感を大事にする理論物理学者らしいエピソードだ。

 博士は研究員として1954年から2年間エディンバラ大に在籍。その後いったんロンドンへ戻ったが、60年には教員として再びこの地を踏んだ。

 29年、英ニューカッスル生まれ。父親は放送局BBC勤めで、転勤が多く、まもなくブリストルに引っ越した。中学生のころ、量子力学に多大な貢献をしたポール・ディラック博士(33年ノーベル物理学賞)の理論に夢中になるなど、小さいころから高度な物理学に深い関心を持っていた。

 一方で反核運動に身を投じた時期もあり、物理学の悪用を許さない姿勢も垣間見える。

 音楽と美術を愛し、美術館で食事をする姿が見られることもしばしば。家族思いで、家族もヒッグス博士のことを誇りに思っているという。(SANKEI EXPRESS

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