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米デフォルト回避、政府機関も再開 問題解決先送り 勝者なき「泥仕合」

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米デフォルト回避、政府機関も再開 問題解決先送り 勝者なき「泥仕合」

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 米上下両院は10月16日夜(日本時間17日午前)、連邦債務上限の引き上げと政府機関再開のための法案を賛成多数で可決、17日未明(17日午後)にバラク・オバマ大統領(52)が署名し成立した。深刻な経済危機を招くと懸念されたデフォルト(債務不履行)は瀬戸際で回避され、一部閉鎖されていた政府機関も17日ぶりに再開される。

 オバマ氏は16日夜、ホワイトハウスで声明を発表し、「国民の懸念を取り去る作業に着手できる」と与野党の合意を評価しながらも、「まだやるべき仕事は多い」と述べ、財政赤字削減など抜本的な税財政改革への議会の協力を求めた。

 上院与野党が16日に法案の内容で合意。下院では多数派の野党共和党が独自案を一時模索したが、断念した。

 法律は、デフォルトを当面回避するため債務上限を来年2月7日までの借り入れに必要な分だけ引き上げるとともに、一部閉鎖された政府機関は1月15日までの支出を予算で手当てするもの。医療保険改革(オバマケア)については、共和党が当初求めていた大幅な修正を見送る代わり、個人の所得確認の厳格化など一部を見直した。

 また、財政赤字削減など抜本的な財政協議を超党派で行う委員会も設け、12月13日までに結論を得ることを目指す。

 法律が成立したことで、デフォルトはひとまず回避され、半月に及んだ一部政府機関の閉鎖も解消される。一時帰休を余儀なくされていた一部の政府職員は職場に復帰し、官公庁の行政サービスや閉鎖されていた国立公園などの業務も正常化に向かう見通しだ。(ワシントン 柿内公輔/SANKEI EXPRESS

 ≪問題解決先送り 勝者なき「泥仕合」≫

 米国のデフォルトの危機は、調整機能を失った下院に代わり、かろうじて“良識”を発揮した上院の主導により土壇場で回避された。抵抗を続けた下院共和党も最後は折れた。デフォルト突入への秒読みが進む中、「危機バネ」が働いた格好だ。

 「良識」示した上院

 10月16日午後10時(日本時間17日午前11時)過ぎ、連邦議会議事堂の下院本会議場。賛成285、反対144で債務引き上げ法が可決されると一瞬、ざわめきが起こった。デフォルトに陥る日付変更線まで2時間足らず。きわどいタイミングでデフォルトの回避が確定した瞬間だった。

 これに先立つ午後8時過ぎ、上院は賛成81、反対18で可決していた。

 この日は前日に引き続き、民主党ハリー・リード(73)、共和党ミッチ・マコネル(71)の両上院院内総務による午前の最終調整で幕を開ける。世界の憂慮の視線が注がれる中、リード氏は正午過ぎ、上院本会議場で「合意に達した」と明らかにした。オバマ大統領と下院共和党の協議が行き詰まり、与野党の上院指導部が乗り出してから5日目。だがリード、マコネル両氏に笑顔は見られない。

 合意の内容では、オバマ氏がメンツに懸け死守しようとする医療保険改革は“無傷”。これでは、調整能力を失っているジョン・ベイナー下院議長(63)をトップとし、保守強硬派を抱える下院共和党が受け入れない恐れがあったのだ。

 損害被ったのは国民

 合意内容は直ちに下院に伝えられる。午後3時過ぎ、議事堂内の「HC5」室。共和党下院議員総会に向かうベイナー氏の表情は、厳しかった。だが、総会後にベイナー氏が放った言葉が空気を一変させる。

 「われわれはよく戦った。勝たなかっただけだ」。“敗北宣言”である。理由は「デフォルトのリスク」。共和党の対応への不支持率は74%にまで上昇し、デフォルトに突入すれば国内外からの批判を一身に浴びてしまう。

 保守強硬派の怒りは収まらない。ルイ・ゴマート下院議員(60)は「法案に反対票を投じる」と息巻いた。上院でもテッド・クルーズ議員(42)が「恐ろしい取引だ。オバマケアに対する戦いを継続しなければならない」と批判した。

 米メディアの一部は今回の結末を、「オバマ氏の勝利」とみる。だが、世界の米国への信頼は大きく傷ついた。米紙ワシントン・ポストは、「敗者」に「政治システム」を挙げた。

 夜、ホワイトハウスで記者会見したオバマ氏は「(政治に)不一致があるとき、国民に損害を与えないようにするという教訓を学んだ」と語った。政治に翻弄されたのは、ほかならぬ国民である。

 これらの意味で、「勝者はいない」(ジェイ・カーニー大統領報道官)といえよう。(ワシントン 青木伸行/SANKEI EXPRESS

 【米財政協議合意のポイント】

・連邦債務の上限を引き上げ来年2月7日まで必要な額の借金ができるようにする。米国債のデフォルト(債務不履行)は回避。財務省による特別措置を認め、期限先送りを可能にする

・来年1月15日までの暫定予算を策定する。政府機関の活動を17日ぶりに正常化する

・その後の予算と、社会保障や税の改革を含む中期の財政計画を超党派委員会で協議。今年12月13日までに結論を出す

・医療保険制度改革の実施延期など大幅な修正は見送る

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