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財政迷走できわまる機能不全
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消費税の引き上げを発表した安倍晋三首相(59)の10月1日の記者会見。「国の信認を維持する」と力強く語るわが国の首相を見て、もはや日米の国政の勢いが逆転したとの思いを禁じ得なかった。ほんの少し前までは民主党政権の迷走で「決められない政治」が常態化していた日本だが、今や一度は地獄を見た首相の強いリーダーシップで物事がさくさくと決まっていく。
かたや米国はどうか。いよいよ「決められない政治」の弊害がきわまり、世界に醜態をさらけ出しているように映る。
米国の財政運営のリスクがついに顕在化した。議会の与野党協議の決裂でクリントン政権下の1996年以来、17年ぶりの政府機関の一部閉鎖が現実となり、今月(10月)半ばにはデフォルト(債務不履行)危機も迫る。背景には、機能不全を抱え込んだ国政システムとリーダーシップの漂流がある。
政府機関の閉鎖を招いたのは、2014会計年度(13年10月~14年9月)の予算案が期限の先月(9月)中に成立しなかったため。米国は日本と同じ2院制だが、予算に関しては衆院の優越が認められる日本に対し、米国は上下両院が対等な立場でともに法案を可決する必要がある。よくいえば両院の相互のチェック機能が働く仕組みといえるが、牽制(けんせい)も度が過ぎれば、いつまでも堂々巡りで物事が決まらない。
しかも、今の上院は与党民主党が多数派だが、下院は野党共和党が掌握する「ねじれ議会」だ。やはり最近までねじれ議会が続いた日本も、衆院の優越があるゆえに、予算が通らずに国政が行き詰まるという悲劇は避けられた。
しかも、財政運営をめぐり与野党には埋めがたい溝がある。社会保障充実に増税も辞さない与党民主党に対し、野党共和党は歳出削減が先決と反発する。
予算協議の焦点となった医療保険改革(オバマケア)は、バラク・オバマ大統領(52)が金融規制改革と並ぶ目玉と位置づけた重要施策。手厚い社会保障で「大きな政府」を掲げる民主党にとって、「国民皆保険」に向けたオバマケアの実現はまさにカギとなるからで、民主党のハリー・リード上院院内総務(73)も「(先送りなどの)修正は認めない」と強硬だ。
しかし、対照的に国家の介入の少ない「小さな政府」を求める共和党にとっては事情は異なる。オバマケアに伴う歳出の拡大は、ただでさえ金融危機以降の景気対策で悪化した財政を一層悪化させるとみる。
やはり与野党協議が決裂して3月に発動された歳出強制削減をめぐる攻防でも、社会保障の切り込みを求める共和党と慎重な民主党が対立する構図が繰り返された。今回は来秋の中間選挙もにらみ、与野党が態度を一層硬化させている感もある。
さらに、「決められない政治」を助長しているのが、リーダーシップの低下だ。予算法案の作成権限は議会にあり、米国には「二人の大統領」がいるとよく指摘される。一人はもちろんオバマ大統領。もう一人の大統領並みの指導力が求められる人物は、共和党を率いるジョン・ベイナー下院議長(63)だ。
まずオバマ氏はせっかく再選を果たしながら、シリア情勢への対応や米連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長人事をめぐる混乱などで民主党をまとめきれず、求心力の低下は目を覆うばかりになっている。
一方のベイナー氏も、共和党内の保守派と穏健派の双方から突き上げられ、それを丸め込む豪腕に陰りがはっきりとみえる。政府機関閉鎖直前の予算協議のヤマ場で、「柔軟性をもってほしい」と党内に呼びかけたベイナー氏の声はかき消された。
政府機関閉鎖に追い打ちを掛けるように、10月半ばには連邦債務の上限超過に伴うデフォルト危機も迫る。政府機関の閉鎖が長期化し、この上、デフォルトまで起きれば、米国のみならず世界経済への影響は甚大で、国際通貨基金(IMF)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事(57)は「悲惨な事態」と気をもむ。
財政運営を通じて政治の機能不全をさらけ出した米国は今や世界を不安に陥れている。強いリーダーのもとで震災から回復しつつある日本も、どうやらその余波を免れそうにない。(ワシントン支局 柿内公輔(かきうち・こうすけ)/SANKEI EXPRESS)