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「オバマケア」めぐり与野党攻防が過熱

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「オバマケア」めぐり与野党攻防が過熱

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 バラク・オバマ大統領(51)が2010年に関連法案を成立させた医療保険改革「オバマケア」をめぐり、民主党と共和党の攻防が激化している。きっかけはオバマ政権が7月2日、企業に従業員への医療保険提供を義務づける制度の実施を1年間遅らせると発表したこと。共和党側はオバマケアが不完全であることの表れだと主張し、共和党優位の下院は17日、オバマケアの核である個人に対する医療保険加入義務づけも先送りする法案を可決して攻勢を強める。一方、オバマ大統領と民主党はこれを否定し、防戦に懸命だ。オバマ大統領の看板政策の帰趨(きすう)は14年の中間選挙にも大きく影響するだけに、今後も論戦は過熱していくとみられる。

 保険提供義務化を延期

 「オバマ大統領はオバマケアは予定通りに進んでいると繰り返してきた。でも現実は違ったのです」。「オバマケアが実現不可能であることが明らかになった」。17日の下院本会議では共和党議員から、オバマ政権が企業の保険提供義務化の開始を14年1月から15年1月に1年間先送りしたことへの批判が相次いだ。

 下院はこの本会議で、個人の保険加入義務化も同様に1年間先送りする法案を可決した。企業に対する義務が先送りされるのなら、個人に対する義務も先送りされて当然だという理屈だ。採決は賛成264に対して反対が161で、民主党からも造反者が出た計算になる。法案が民主党優位の上院を通過する可能性は低いが、オバマ政権の看板政策に揺らぎが出たことで共和党は勢いづく。

 オバマケアは昨年6月の最高裁判決でも、州が連邦政府の支援を受けて運営する低所得者向け公的医療保険(メディケイド)の提供対象拡大に歯止めがかかった。判決では、州が対象を拡大するかどうかを判断する余地が認められ、テキサスやフロリダなど18州が対象を拡大しないことを決定。他の9州でも拡大が決まっていない。オバマケアが当初の姿から後退していることは間違いない。

 成果を強調する大統領

 一方のホワイトハウスは企業の保険提供義務化先送りの理由を「より分かりやすい制度を整える時間をとるため」と説明。共和党の法案が可決された17日には、オバマケアで「12年だけでも保険加入者は39億ドル(約3900億円)の保険料を節約できた」とする声明を発表して、オバマケアの有効性を示した。

 さらに翌18日にはオバマ大統領自身がホワイトハウス内で支持者やナンシー・ペロシ下院院内総務(73)ら民主党の有力議員らを前に演説。オバマケアは保険会社に対して保険料の80%を保険金の支払いなど加入者の利益にあてることを義務づけ、管理費や利益にあててはならないとしていることを強調した。また来年1月の個人の保険加入義務化を前に、予定通り今年10月、インターネット上でさまざまな医療保険を比較しながら購入できるシステムを稼働させる考えを示した。

 オバマ大統領はさらに、オバマケアによってニューヨーク州は来年の保険料が現在の半額以下になると見込んでいることや、12年には1300万人、13年夏には850万人の保険加入者が保険料の払い戻しを受けたことなどを紹介。「こうした出来事が米国内のあらゆるところで起きている。マスコミではあまり報じられないが、これが現実なのです」と訴えた。

 中間選挙にも影響

 オバマ大統領の看板政策をめぐる対立は14年の中間選挙にも大きく影響するだけに、論戦は政策の内容だけに留まらない。共和党側は、オバマ大統領が企業の保険提供義務化という「負担」を遅らせたことについて、「中間選挙で経済界から反発を受けることを避けるためだ」と皮肉る。

 また先送りの発表方法にも、「オバマ大統領自身の会見でもなく、プレスリリースでもなく、ホワイトハウスのブログへの投稿というかたちでこっそりと公表した」「独立記念日(4日)の休日の前に発表されたのは、オバマケアへの批判を目立たなくさせるためだ」との批判も沸き上がる。

 これに対してオバマ大統領や民主党側は共和党がこれまでも上院を通過する見込みがないにも関わらず下院でオバマケアを修正する法案を可決してきたことを踏まえ、「共和党はこれが正しい政治だと思っているのか。議会は米国民の利益のために行動すべきだ」と反撃する。

 医療保険改革はオバマ大統領の最大の成果とされており、大幅な改正は考えにくい。ただ、企業の保険提供義務化の先送りが突然行われただけに、今後も思わぬ展開が待ち構えている可能性もある。(ワシントン支局 小雲規生/SANKEI EXPRESS

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