SankeiBiz for mobile

手話を言語に!「聖火」ともる 鳥取県で国内初の条例制定

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのトレンド

手話を言語に!「聖火」ともる 鳥取県で国内初の条例制定

更新

 【ソーシャル・イノベーションの現場から】

 鳥取県と日本財団が協力して研究会を立ち上げ、作成した鳥取県手話言語条例が10月8日、県議会本会議で全会一致によって可決・成立した。手話を言語として位置付ける条例の制定は日本で初めてのことだ。

 普及を公的に推進

 条例制定を受け、研究会委員で鳥取県ろうあ団体連合会事務局長の石橋大吾さんは「ろう者と手話の歴史に新しいページが刻まれた」と喜びを語った。

 手話言語条例は、手話を「独自の言語体系を有する文化的所産」と定義し、県・市町村の責務や県民・事業者の役割を定め、手話の普及に向けた取り組みについても言及している。

 「ろう者の基本的人権が保障されるために、言語として、手話を使える環境が、公的に整えられていくことが求められます」と語るのは、研究会で座長を務めた鳥取県社会福祉協議会地域福祉部の小林良守部長だ。

 一般的にろう者とは聴覚に障害があり手話を母語とする人を指すが、1880年にイタリア・ミラノで開かれた「世界ろう教育国際会議」(通称、ミラノ会議)で、手話よりも口話法(口の動きで言葉を読みとる読唇術)の方が優位であると決議されて以降、日本の教育現場でも手話は排除されてきた。

 ろう者にとって手話の禁止は、コミュニケーションを剥奪され、社会での生活を著しく阻害するものだった。現在、ミラノ会議での決議は誤りであったとして却下され、さらに障害者権利条約で「手話は言語」と明記されるようになった。手話を法的に言語として認めている国は30カ国を超える。しかし、日本は障害者権利条約を批准しておらず、手話に関する法整備は全く進んでいない。

 障害者に配慮した社会

 鳥取県ろうあ団体連合会の戸羽伸一理事は、「一番ショックだったのは、町の中を歩いていた時に、知らない方に声をかけられたんですね。もちろん何を言っているのか分かりませんでした。私が聞こえないということが分かると、それで立ち去られてしまったんです。こういったことは何度もありました」と、手話を交えて自身の経験を訴える。聞こえないだけで敬遠されてしまう社会を変えていくことは、ろう者の長年の願いだ。

 「コミュニケーションで、ろう者が苦労を強いられている。これは人権に関わる問題だ」。平井伸治鳥取県知事も手話言語条例制定に強い意欲を表明した。鳥取県は平井知事就任後、将来ビジョンに「手話がコミュニケーション手段としてだけでなく、言語として一つの文化を形成している」という文言を明記。「障害を知り共に生きる」を合言葉にした「あいサポート運動」を展開するなど積極的に障害者に配慮した社会作りを推進している。

 全国へリレー

 こうした鳥取県の取り組みに可能性を感じ、全日本ろうあ連盟と日本財団は今年1月末に、手話言語条例制定を打診した。平井知事は日本財団の協力を受け、ろう者を含む有識者11人を委員とする研究会を発足させ、4月から5カ月間にわたり審議を重ねた。

 委員の中西久美子全日本ろうあ連盟監事は、「手話が言語として認められ、県民の方に手話が広がり、聞こえないことに対する理解を深めたい」と、条例制定への熱意を語る。

 妥協しない審議を経て、議会に条例が提出されたのが、9月6日。約1カ月にわたる議会での審議を経て10月8日、手話言語条例は成立した。

 しかし、手話言語条例の制定はスタートにすぎず、ゴールではない。鳥取県では今後、条例に基づく手話の普及に向けた施策が実施される計画だ。

 平井知事は「(鳥取県での手話言語条例は)聖火をともしたようなものであり、この聖火を全国へ広がるようリレーしていかなければなりません」と意気込む。「手話革命」が鳥取県から始まった。(日本財団・公益・ボランティア支援グループ 中安将大/SANKEI EXPRESS

ランキング