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【伊豆大島】薄い危機意識 「これは人災だ」

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【伊豆大島】薄い危機意識 「これは人災だ」

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 「土石流が発生してホテルや家屋が浸水しています! 避難を指示した方がいいでしょうか?」

 10月16日午前3時15分。東京都大島町の川島理史(まさふみ)町長(61)は、出張先の島根県隠岐の島町にいた。静まり返ったホテルとは対照的に、受話器から切羽詰まった声が耳に響いた。電話の主は約600キロ離れた大島町で、実質的な責任者として猛威をふるう台風26号と対峙していた総務課長だった。

 町のトップ不在

 川島町長は避難勧告を見送った。「深夜に無理に避難させれば被害拡大につながる」。その判断を待っていたかのように、5分後には大金沢(おおがなさわ)が氾濫した。原田浩副町長(61)も東京都檜原村(ひのはらむら)に出張中で、トップ2人が不在の中、職員らの対応は、防災無線での注意喚起にとどまった。2人が自衛隊機などで島に戻ったのは16日夕。多くの住民が土石流にのみ込まれてから半日以上もたっていた。

 川島町長は町議を4期務めた後、2011年4月に防災対策を訴え、共産党推薦で初当選した。確かに過去には深夜の避難勧告で被害が拡大したケースもある。防災・危機管理アドバイザーの山村武彦氏(70)も「町長の考えにも一理ある」と一定の理解を示す。

 土砂災害に関する避難情報は、発生場所の予測が困難なため判断が難しい。国土交通省によると、08~10年に起きた土砂災害2881件のうち、避難勧告はわずか224件。災害発生前は92件しかない。

 ただ今回のケースについて山村氏は「土砂災害警戒情報が出された時点で勧告を出すべきだった」と指摘する。町の地域防災計画にも、警戒情報発令の場合、「自主避難を促すとともに、避難勧告の判断に活用する」と明記されていた。

 だが肝心の警戒情報は町に伝わっていなかった。町幹部や防災担当者は15日午後6時5分に都からファクスに気付かず、6時半ごろまでにいったん帰宅。ファクスは約6時間後に総務課長が再登庁するまで放置された。緊急事態に、町トップも、役場職員も不在…。危機管理コンサルタントの田中辰巳氏(60)は、行政の不作為にあきれる。

 「これは人災だ」

 三原山の噴火で全島避難を経験したこともある“災害慣れ”した町で、過去の教訓はなぜ生かされなかったのか。

 川島町長は土石流が発生する前日の15日午後4時すぎ、総務課長と電話で16日午前2時に職員を役場に待機させる「非常配備態勢」を取ることを確認。だがそれ以降、11時間もの間、町と連絡を取ることはなかった。「電話すると、混乱を招く」。川島町長の釈明を言葉だけとらえれば、道理は通っているようにも聞こえるが、風雨が強まった夕方以降、役場には職員の姿もなかった。

 「防災担当者が一時帰宅するのは災害対応上、問題外」。こう批判する日大の福田充教授(44)=危機管理論=は「町を離れていても、防災担当者と情報交換を密にしておけば、指揮、命令は電話で可能だった」と指摘する。

 気象庁は15日午前10時45分に緊急会見を開き、台風26号について「この10年で最も強い」と警戒強化を呼び掛けた。だが、川島町長はその直前、島根県隠岐の島町に向け出発していた。

 「台風は地震と異なり、予測が可能。進路も強さも分かっていながら出張を取りやめなかった判断は論外で、危機管理意識が希薄すぎる」と断じるのは、危機管理コンサルタントの田中辰巳氏(60)だ。

 出張か台風対応か

 川島町長が出席したのは「日本ジオパーク隠岐大会」。教育や観光に役立てる自然公園を認定する「日本ジオパークネットワーク」の全国大会だが、大会関係者は「首長会議は代理出席も可能」と説明する。

 田中氏は「危急存亡に関わる出張でないことは明白だ。自然災害は、現場にいないと的確な判断は下せない」と話す。

 町民の間にも怒りが広がる。無職の若林昇さん(65)は「大事なときに町長も副町長もいないなんてありえない。私たちは彼らの指示に従って避難するしかないのだから」と憤る。無職の阿部比左志(ひさし)さん(84)も「出張中の町長にきちんと情報が上がっていれば、結果は違っていたかもしれない」と話す。

 川島町長は「土砂災害を過小評価し、出張を断行したこと自体、判断の甘さ、過ちだった」と謝罪した。

 住民の生命、財産を守ることを、宿命づけられる自治体トップ。東京電力福島第1原発事故で全村避難を指揮した福島県飯舘村の菅野(かんの)典雄村長(66)ならば、どう動いたか。

 「大会と台風対応のどちらが大事かを考えることができていれば、たとえ、(町長が)町にいなくても、万が一のときのために何らかの対応ができたはずだったのではないか」(SANKEI EXPRESS

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