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社会
【伊豆大島】弟を捜し続ける兄「早く出てこい」 土石流1週間 死者29人に
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台風26号による伊豆大島(東京都大島町)の土石流災害は、10月23日で発生から1週間となった。警視庁と町によると、22日には新たに1人の死亡が確認され、死者は29人になった。このうち新たに男女1人ずつの身元が分かり、身元判明者は25人に。16人の安否が依然不明のままだ。台風27号の接近による二次災害の懸念が高まっており、町は高齢者や要介護者547人の意向を踏まえ、23日から順次、島外へ避難させる。
都などによると、台風26号は(10月)15~16日に伊豆大島に接近。(10月)16日未明に豪雨に伴って土石流が発生し、推定で283棟が損壊、114ヘクタールが被害を受けた。全壊と倒壊数は約30棟。23日午後6時現在の停電は2軒、断水は28世帯。(10月)20日に大島医療センターの入院患者らが渋谷区の病院に移送されるなど、島外への医療搬送者は21人に上る。
大雨で避難勧告が出た(10月)19日には最大990人が島内6カ所の避難所に入ったが、(10月)21日午後5時半時点で87人となっている。
町は22日、台風27号の接近で避難時に支援が必要な高齢者らに不測の事態が生じる恐れがあるとして、島外避難への意向調査を実施した。午後6時現在で高齢者80人が島外への避難を希望したため、介助者を合わせ119人が23日にチャーター船で島を出る。島外から島内の高校に進学した生徒166人は22日、高速船で一時帰省した。
警視庁や東京消防庁、自衛隊などは22日も1200人態勢で捜索した。
≪弟を捜し続ける兄「早く出てこい」≫
「弟が生きているとは思っていない。だけど遺体を見つけて弔ってやりたい。それが兄としての願い」
神達(かんだち)地区で行方不明となっている市村君和(きみかず)さん(61)の兄、近夫さん(63)は10月22日、流された君和さん宅近くで弟の手がかりを捜していた。すでに君和さんの妻、初美さん(53)は遺体で発見された。「君和、早く出てこい」と心の中で念じた。
(10月)17日早朝に東京都立川市から伊豆大島に駆けつけて以降、連日のように状況が変化する捜索の様子を見守る。雨が降る中、弟の名前を呼びながら、親族と捜し回りもした。
「あのバイクは君和がいつもいる茶の間の近くにあった。周りを念入りに探してほしい」。この日も捜索していた消防団員や消防隊員らに積極的に情報を提供した。バイクの近くからは茶の間近くに保管されていた愛用の釣りざおが出てきた。しかし、弟は見つからない。
昨年、君和さんは還暦を迎えた。お祝いに赤いちゃんちゃんこを贈ると、嫌がりつつも涙を流して感謝してくれた。「涙もろく義理人情に厚い。いつも困っている人を見れば助け、こういう場所では率先して手伝っていたと思う」
21日にいったん島を離れた。長期戦を覚悟して勤務先に休職届を出そうとした。だが、社長は受け取らずに「思う存分捜してきなさい」と言ってくれた。
「見つかるまで大島にいる」。君和さんと再会するまで、被災現場を歩き回るつもりだ。
安否不明者を捜し続けるのは、家族だけではない。
神達地区で土砂崩れに巻き込まれた自営業、山下成男さん(71)の50年来の親友、小川護郎(ごろう)さん(68)=大島町岡田=は土石流の発生から連日、山下さん方があった集落へ約30分かけて登ってくる。
建物は跡形もなく、ほとんど更地のようだが、「どうしても足が向く」と、荒れた道を長靴で歩く。
山下さんは、働いていた鮮魚店の先輩。1969年3月21日、一緒に乗っていた車が大波で海に落ちたが、奇跡的に2人とも助かった。それ以来、春になると再会して酒を交わし、「この1年も無事に過ごせたな」とお互いを励ました。
22日は山下さんの妻、光子さん(64)の火葬に出席した。神達へは登れなかったが、「どんな形でもいいからとにかく早く見つかってほしい。見つかるまで登るだろう」と話していた。(SANKEI EXPRESS)