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【伊豆大島】「望みは必ずある」 早く助けたい

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【伊豆大島】「望みは必ずある」 早く助けたい

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 ≪捜索再開、新たに男性遺体発見≫

 台風26号による伊豆大島(東京都大島町)の土石流被害で、警視庁や自衛隊などは10月21日、約1200人態勢で朝から捜索を再開し、新たに1人の男性の遺体を発見した。また、1人の身元が判明した。

 週末の雨で地盤が緩んでおり、二次災害を警戒しながらの作業となった。北上中の非常に強い台風27号に加え、この日は日本のはるか南方で台風28号も発生しており、襲来前の救出を急いだ。

 警視庁と町によると、身元が判明したのは、大島町元町神達(かんだち)のパート、田中聖子さん(55)。これまでに死亡が確認されたのは28人で、うち判明者は23人になった。依然として18人が行方不明になっている。

 町は21日午前8時、大雨による二次災害を警戒して約2300人を対象に(10月)19日夕から出していた避難勧告を約39時間ぶりに解除した。20日夜の段階で、651人が学校や公民館に避難していた。ただ、今後の被害の拡大を警戒し、住民には「再び避難していただく可能性が高いので、準備しておいてほしい」と呼び掛けている。

 気象庁は、台風27号が進路次第で週後半にも強い勢力で伊豆諸島に近づく恐れがあると予想。町は21日、台風27号による二次災害の恐れがあるとして、島内の高齢者や要介護者ら計547人のうち、希望者を島外に避難させる方針を決めた。付き添い者とともに23日にもチャーター船で島を出て、安全が確認されるまで都営住宅や都の福祉施設に避難する。

 ≪「望みは必ずある」 早く助けたい≫

 10月21日午後1時。土石流が集落をのみ込んだ神達(かんだち)地区に、陸上自衛隊第34普通科連隊(静岡県御殿場市)の隊員16人の姿があった。約440人が活動する自衛隊の中で第1普通科連隊(東京都練馬区)とともに主力を担う。隊員はスコップで黙々と泥を掘り進める。

 前日の大雨で水分を含んだ土砂は重い。長さ10メートルを超える木々が横たわり、土砂の下には木の根やコンクリートの残骸が埋まり、捜索を妨げる。「普通の土壌掘削とは違い、想像以上に力がいる」と隊員は語る。

 背後には大きく削られた三原山の斜面。上空を覆う厚い雲が山頂も隠す。二次災害の危険もぬぐえず、隊員は双眼鏡片手に交代で山肌を監視した。「時間がないときはあのビニールハウスの前に(避難)誘導しろ」。引き継ぎで隊員が注意事項を告げた。

 周辺からは、大雨の前に仏壇が見つかった。200メートル上にある民家から押し流されてきたという。民家の住民は見つかっておらず、隊員は「ここで救出を待っている可能性がある」と力を込める。すでに生存率が急激に下がるとされる「72時間」は過ぎたが、東日本大震災など数々の災害派遣の経験を持つ隊員は「望みは必ずある」。捜索中断にははがゆい思いを抱き、空をにらんでいたという。

 50センチ、60センチ…。不明者を傷つけないように、隊員は手作業で掘り進める。土砂の中からは、皮の袋にブローチ、一部がはがれたアルバム…。隊員は丁寧に泥をぬぐい、そばに並べた。こうした品々を大切に持ち帰る家族もいる。「どんなに苦しい思いをしているのだろうと、胸が締め付けられる思いがした」

 夕方には周囲の樹木を取り除く重機2台も加勢したが、ガードレールなどに遮られ、作業は難航。日が陰ると気温が下がり、小雨もぱらつく。近くに住む山崎恭司さん(75)は作業を見守りながら「頭が下がる思いだ」と語る。山崎さんの友人は犠牲になり、安否不明者もいる。台風27号が接近し「また土砂をかぶるかもしれない。その前にどうか見つけてほしい」。

 「どんな状況になろうとも助ける。全員の思いは一つだ」。第34普通科連隊の16人を含め指揮を執る第1普通科連隊副隊長の亀山淳・2等陸佐(50)は強調する。21日夜以降は約500人が追加配備され、自衛隊は夜を徹し、約1000人態勢で捜索を続ける。(森本充/SANKEI EXPRESS

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