ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
スポーツ
ラグビー NZvs.日本 惨敗から18年 「変化」の兆し
更新
世界最強、ニュージーランド代表のオールブラックスを東京・秩父宮ラグビー場に迎えて11月2日、日本代表とのテストマッチが行われた。
2019年にラグビーのワールドカップ(W杯)日本開催を控えて、なんとも危険なマッチメーク。1995年W杯では17-145で大敗し、国内のラグビー人気を急速にしぼませた因縁もある。2年前のW杯でも7-83で敗れた。ここでまた惨めな試合をすれば、日本ラグビー界の将来を奪う可能性もあった。
それでも秩父宮のスタンドを満員にさせたのは、現在のジャパンに対する期待の大きさだった。知将エディ・ジョーンズをヘッドコーチに迎え、ジャパンは変身を遂げつつあった。6月には、同じ秩父宮でウェールズを相手に23-8で歴史的白星を挙げた。試合前の選手紹介では、オールブラックスのスーパースター、主将のリッチー・マコウよりも、カムバックしたSOダン・カーターよりも、脳梗塞で入院中のエディ・ジョーンズの紹介が最高最大の歓声と拍手を浴びた。
試合開始早々、相手スクラムをジャパンが押してボールを奪った。魂のタックルが黒衣軍団の突進を止め、ラインアウトも安定していた。FB五郎丸歩の確実なPGで前半20分までは互角の展開といえた。
そこまでだった。ハイボールの処理のミスを突かれ、外でボールを回され、次第にトライを重ねられた。カーターの左足も健在で、楕円(だえん)球が次々ゴールポストに消えていった。見せ場は終了間際、オールブラックス側ゴールライン目前の攻防だったが、ジャパンのトライは遠かった。
6-54。オールブラックスを相手に54失点、48点差はいずれも過去最少だったが、善戦とはいえない。病床のエディ・ジョーンズは「最初の20分はよかった。世界のトップ10に勝つためには、同じことを50分間続けなくてはいけない」とコメントした。
145点を取られた95年W杯の後は、もうラグビーなんて見る気もしない、と思った。だがこの日、秩父宮を後にする観客は「興奮した」「ちゃんと戦った」と半ば満足げだった。選手らも口々に手応えを語った。そこが18年前と、大きく違う。意識の変化を形にするために、勝利がほしい。欧州遠征で戦う9日のスコットランド戦は何が何でも結果をもぎとってほしい。
≪興奮と落胆交錯 無情のノートライ判定≫
11月2日の秩父宮ラグビー場は、あいにくの小雨交じりの天候だったが、2万454人の観客がスタンドを埋めた。前売り券は売り出し初日に即日完売していた。
国歌斉唱のセレモニーでは正装に身を固めた海上自衛隊東京音楽隊の三宅由佳莉三等海曹が君が代を歌った。凛(りん)として、清々として、おごそかに秩父宮の空気を変えた。
オールブラックスは闘争舞踊「ハカ」でこれに応えた。「カマテ カマテ カオラ カオラ テネイ テ タンガタ プフルフル(私は死ぬ、死ぬ。私は生きる、生きる。見よこの勇気ある者を)」。迫力に気おされぬよう、ジャパン戦士らは肩を組み、裂帛(れっぱく)の視線で押し返す。
ああこれが、オールブラックスとのテストマッチなのだな、と。スタンドで見ることができた幸運を、2万人が感じたに違いない。
序盤の互角の展開にこそ大きな声援が飛んだが、オールブラックスがトライを重ねるにつれ、本当にここに2万人もいるのか、と思うほど静かになった。
ようやくの興奮がスタンドを包んだのは、終了間際の攻防だった。オールブラックスをゴール前にくぎ付けにし、ホーンが鳴って最後のワンプレーとなってからも、ペナルティーを受けながら速攻を繰り返した。PからGO。興奮最高潮のバックスタンドの前で、左展開から左WTB福岡堅樹がタッチライン際を駆け抜けた。ボールはインゴールへ。体は外へ。福岡を弾き出したのは主将リッチー・マコウの強烈なタックルだった。勝敗はとうに決しているのに闘将は一つのトライも許さない。
主審がビデオ判定を求めた。会場のスクリーンに角度を変えた「トライシーン」が何度も映し出される。その度、スタンドに歓声とため息が交錯する。ボールがインゴールに着地する直前、福岡の体がコーナーフラッグのポールをたわませていた。タッチラインを割ったとの判定は、そのままノーサイドの笛となった。
2万の興奮、2万の落胆。これを2019年の日本W杯につなげなくてはならない。ただ同時刻、隣の国立競技場ではJリーグ・ヤマザキナビスコカップの決勝が行われていた。柏-浦和の関東カードに、4万6675人の観衆。ラグビー界の最高カードが国立で行われていたら、どれだけ入ったろう。その答えも見てみたかった。(EX編集部/撮影:山田俊介、中井誠/SANKEI EXPRESS)