村松孝尚さん(以下村松) 正直なところ、自信なんてないですよ。でも、人と会ったときに、その人の中に自分が入っていっちゃうっていうか。鼻の穴から、シュッと(笑)。
天童荒太さん(以下天童) わ、怖ッ(笑)。村松さんはいろんなところで新しいものを見つけてくるわけですよね、どういう判断基準があるんでしょう。
村松 社会がどうあるべきか、というのをいつも考えています。社会がどうあるべきかを考えれば、会社のあり方は自然と決まる。社員にも「会社ではなく社会だと思って仕事をしろ」と言っています。ギャグみたいですけど、社会をひっくり返せば会社ですから。
つまり、未来から考えるというか、「こうあったらいいな、こうだったら人が気持ちよくいられるな」と考える。先に未来の絵を描いて、そこから今日何すべきかを考えます。会議をやっても、大体は「昨日までこうだったから明日はこう」って、過去のデータになっちゃう。でも、そうじゃないんだと。
もちろん普遍的なものはあるけれど、何を時代の中で大切にすべきかって変わってくる。今の日本であれば、クリエーション。創造性が必要だと思う。教育も、会社も、創造的であることに、まじめにやるべきだと思います。
30年先の絵を描く
天童 創造性というのは、真似をするなということでしょうか。
村松 真似はしてもいいんだけど…。未来を切り開いていくということでしょうか。例えば、男女が結婚して、2人でもっともっと幸せになるような生活を作っていくことも創造性だと思うし。小さなことも大きなことも、「どうあるべきか」という未来から考える。それが創造性なのだと思います。
天童 非常に素敵なコンセプトですね。何年ぐらい先まで考えるんですか。
村松 30年先までは、無理にでも絵を描きますね。そうすると、10年ぐらいはわりとはっきり見えてくる。
天童 それは紙に書くんですか?
村松 そう。自分の脳みそと会話するんです。寝る前、布団の中とかでね。お店を立ち上げたときぐらいから、ずっと書いてますね。従業員が3人しかいないときから、20人ぐらいの組織図を書いていた(笑)。いつも先のことを考えてきました。過去から未来を考えない。未来から、明日やることを考える。
天童 見習いたいなあ。モノをセレクトするときには、そのどこを見て選んでいくんですか。
村松 モノではなく、「この人を作っているものを買おうよ」ということですね。やっぱりクリエーションが本質的な人と、コピーの人がいる。多くはコピーなんだけれど、その中から本質的な人を見抜いていくんです。難しいけれど。まずは人です。パリでもそうだったんですけど、すれ違って気になる人がいると追いかけていって捕まえちゃう(笑)。
あとは、現象ですね。たとえば、今ニューヨークにチェルシーマーケットという商業施設があるんですけれど、服屋さんの隣にパン工場があったりと、ネットではできない体験型のショッピングなんです。決して値段は安くないけど、すごく人が集まっている。ショッピングモールを作るとしても、そこにどんなお店を入れるかではなく、こういう現象を作りたいと考える方が重要だと思います。うまく説明できないんだけど…。
天童 いや、説明しにくいところに大事なことがあるんじゃないですか。つまり、言葉でちゃんと説明できるっていうことは他の人もきっと説明できてしまうわけで、その時点ですでに古くなるでしょう。
村松 分かりにくいものに大事なもの、未来がある。どうしても、人は異質なものを悪意なく自動的に排除してしまうんですね。社内でもそれは起きていて。僕は異質なものをやっていて、「村松プロジェクト」というセクションを作っているんですが、「社長、またお金かかりますよ」って言われちゃう。それが窮屈で、結局、自分が作ったプロジェクトから、自分が出てしまうという(笑)。普通は異質を駆逐する。それは、社会全体で起きてることですよね。がんばって、異質が存在しうる社会というか、会社づくりをやっています。
天童 人はつい他人が持っているから、流行っているから、ということで安心してしまう。でも、そんな中で、自分がよいと思ったものをよいと信じ抜くことができる感性って、磨きうるものなのでしょうか。
村松 磨けると思います。まずは、世界を見る。コピーするのではなく、感じてくること。感じれば、考えるし、それが思想になる。迷わずに自分の感性を押し出せるようになる。
天童 一歩踏み出すこと、体験してくるっていうのは…。
村松 絶対に大事ですね。財産になります。
「モード」の本質とは…
天童 村松さんは、いろいろな人と会い、感性の合う人を選び、その人の言葉とか考えを信じてこられた。さらに、それに対する自分の勘を信じて、体力と財力をつぎこんできた。結果としてオンリーワンになられたわけですが、裏を返せば、人と会うこと、そして人を選ぶということが、実は何より難しいことなんじゃないか。みんなができることなら、オンリーワンになれないわけですから。
それは思うに、村松さんは、人から影響を受けることを恐れなかった、ということなのではないでしょうか。(取材・構成:塩塚夢/撮影:宮崎裕士/SANKEI EXPRESS)