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【エコノナビ】「つかみ金農政」…減反廃止のウソ
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農業集落ごとの変化のイメージ=2013年11月25日現在、※農林水産省が日本の平均的な農業集落(耕地面積34ha)に関して試算 安倍晋三首相が11月22日の産業競争力会議で「コメの生産調整の廃止は農政に必要不可欠」だとして、生産調整(減反)政策の見直しを指示した。これを受け、政府は食管制度廃止以来、自主的参加の名目で、自治体を通じてコメの生産調整数量を農家に配分してきた仕組みを5年後をめどにやめる方針を11月26日に決定した。
これを「減反廃止」と、農政の大転換であるかのように喧伝(けんでん)する向きがあるが、現実はまったく違う。従来ある「コメの生産を抑制し、米価の下落を防ぐ」ための補助金が自民党、農林水産省によってむしろ増大される状況なのだ。
これでは、生産調整廃止によって市場システムが機能するようになり、高齢・小規模農家から意欲あるコメ作り専業農家への農地集約が進むというストーリーは描けない。まして生産効率を上げて価格競争力を高め、いずれは「日本産米を有力輸出品に」などという夢はまったくの絵空事だろう。現実は農業衰退の背をただ押すだけと言っても過言ではない。
なぜ生産調整廃止が農業再生に結びつかず、ねじ曲がってしまうのか。その理解には民主党政権時の戸別所得補償制度に立ち戻る必要がある。この制度は欧州もやっているもので、生産意欲のある大規模農家の生産費を補填(ほてん)するのが目的だ。ところが、民主党政権は減反に応じた農家を対象に適用したため、逆に生産調整強化と高齢・小規模農家温存に作用してしまった。
今回の安倍政権がやろうとしているのは、この戸別所得補償制度をやめて、その1600億円の財源を麦や飼料用米などの転作補助金に回そうというだけである。ただ、戸別所得保障制度を全廃するだけだと農家の不満が高まるので、減額した上で農地保全名目の新たな「日本型直接支払い」に切り替えるという。
生産調整制度を廃止しても農業を元気にする最適なストーリーは描けず、補助金制度だけが複雑になる。農家の多数を占める兼業農家の票を前に、理念のない「つかみ金農政」は堅牢(けんろう)だ。“岩盤”に挑んだアベノミクスの敗北が早くも濃厚である。(気仙英郎/SANKEI EXPRESS)