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【取材最前線】みなが待ちわびる日本人横綱
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これまで見たことのない光景だった。先月(11月)行われた大相撲九州場所の14日目。大関稀勢の里(きせのさと)が全勝の横綱白鵬に土をつけると、桟敷席から突然万歳コールが起こった。10度は続いただろうか。第一人者として角界を引っ張り続けてきた横綱に敬意を欠く行為だという指摘もある。が、好角家の正直な思いを代弁していたのではないだろうか。近年番付上位を占める外国勢に、苦戦し続けてきた和製力士がようやく意地を示したのである。
日本人の新横綱誕生は1998年名古屋場所の若乃花を最後にない。それどころか日本出身力士の優勝すら2006年初場所の栃東以来遠ざかっている。朝青龍(あさしょうりゅう)、白鵬、日馬富士(はるまふじ)と3代続けて最高位に昇進したモンゴル勢の強さばかりが目立ってきた。特に通算27度の優勝を果たした白鵬の安定感は際立っており、年6場所で今年は4度も賜杯を抱いた。ともに国民栄誉賞受を授与された32回優勝の大鵬、31回の千代の富士の名横綱の記録を抜くのも時間の問題とみられている。
そんな現状打破に最も期待を込められているのが、稀勢の里である。まだ優勝経験もなく、白鵬との過去の対戦成績は10勝32敗で今年1年も2勝4敗。だが、成績以上に息の詰まる攻防戦を展開している。年を重ねるごとに両者の力の差は縮まっているように映る。白鵬は右四つ、稀勢の里が左四つといわゆる得意の差し手が異なる“けんか四つ”というのも勝負を盛り上げる一因だ。
九州場所では立ち合いの圧力で勝った稀勢の里が十分の形で完勝した。柔和な表情を見せることがある白鵬と比べ、稀勢の里の口数は少ない。勝っても負けても淡々と。そこが昔の武士を思わせるようで根強い支持を集める理由でもある。
一年納めの九州場所は千秋楽に日馬富士が白鵬との対決を制し、5場所ぶり6度目の優勝をさらった。ことしも日本出身力士の優勝は実現しなかったが、好成績を評価され、稀勢の里は来年1月の初場所で横綱昇進に挑むことが決定。相撲界において決して若くない27歳の日本人大関にとっては、2度目の最高位昇進への好機だ。前回は重圧をはね返せず失敗に終わった。今度こそ自らの手で綱への道を切り開いてほしい。ファンは待ちわびている。(藤原翔/SANKEI EXPRESS)