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まろやかビーフのうまみと濃密ソース 東京・浅草 「シチューの店 フジキッチン」

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まろやかビーフのうまみと濃密ソース 東京・浅草 「シチューの店 フジキッチン」

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お皿の真ん中には堂々の牛バラ肉。つやつや輝くソースをかけて。名物料理ビーフシチューは著名人の舌もうならせる。  【食を楽しむ】

 温かく、おなかがいっぱいになるビーフシチューは、冬のごちそうの定番。ほかほかのひと皿を求め、東京・浅草の「シチューの店 フジキッチン」へ。

 浅草寺詣での人々でにぎわう仲見世商店街から、ひとすじ脇道に入る。店のカウンターの奥にあるこぢんまりした厨房で、シェフ、上原章さん(77)が、糊の利いたコックコート姿で忙しく働いていた。

 初代店主が浅草にフジキッチンの看板を構えたのは戦前のこと。上原さんは3代目で、仲見世商店街のそばに店を移して43年目になる。

 「第二次大戦後の焼け野原の中、初代が、これからは洋食の時代だ、って言ってね」。試行錯誤で生まれた洋食の味わいは、たちまち浅草界隈の旦那に人気に。浅草をこよなく愛した作家、永井荷風も常客だったようだ。永井の日記「断腸亭日乗」にも「フジキチン」の名が出てくるという。世代が変わった今も、俳優、野球選手、ミュージシャン…著名人がシチューを食べにフジキッチンに通う。看板通り、タンシチュー(3000円)とビーフシチュー(2700円)がおすすめメニュー。牛バラ肉を使ったビーフシチューを注文した。

 実直に手間暇をかけて

 つやつやしたデミグラスソース(以下、ソース)をまとって、小学生のげんこつ大の牛肉が3つ、並んだ一皿が運ばれてきた。付け合わせは、マカロニ、ポテト、ニンジン、インゲン。

 肉にナイフを入れる、というより触れるだけで、ほろほろと柔らかい塊がくずれた。たっぷりソースを絡めて口に運ぶと、濃密でまろやかな肉のうまみが広がる。一口、また一口、ソースを絡めては肉を口に運ぶ手が止まらない。大きな3つの肉の塊とソースは、たちまち皿から消えた。量もあって味も濃厚、おまけに本来脂っこいとされる牛バラ肉だというのに、胃にもたれない。記者が訪れる数日前には、食欲がうせてしまった94歳の男性が「ここのシチューなら食べられる」と息子に連れられやってきて、ぺろりと肉を2つ平らげていったという。

 「とにかくビーフの味わいを出したいから、なるべく食材は単純に、余計な野菜や、調味料もほとんど使わないで作っています」と上原さん。では、と厨房をのぞく。

 濃密なソースができるまで、実に丁寧な手仕事の連続だ。まず牛バラ肉から、大量の脂身を除く。下ゆでし、皮をむいた牛タンとともに、バラ肉の表面を軽く焼き、大きな寸胴鍋で赤ワインとトマトピューレで煮ること、8時間。肉は鍋から取り出し、翌日の食材に。煮汁はソースの土台になるため、繰り返し、肉を煮ては取り出して漉(こ)し、次の日も肉を入れ…。そうして1週間かけて、ようやく「ソースのもと」ができあがる。

 このソースのもとに、とろみづけで加えるルーは小麦粉をオーブンでゆっくり数時間、焼いた自家製。バターや油は使わない。ソースが鍋に余れば、さらに煮詰め、濃厚な仕上げ用ソースに仕立てる。「シンプルに作っているぶん、手間暇を省くといけないね」と上原さん。手間と時間をかけることで、一つの寸胴鍋から多層的に肉のうまみを引き出していた。

 実際以上に豪華に見せる食材の偽装が、今年はニュースになった。そんなこともあったから、実直に手間暇をかけたフジキッチンのシチューが、ひとしお、ごちそうだと思えた。(津川綾子、写真も/SANKEI EXPRESS

 ■シチューの店 フジキッチン 東京都台東区浅草1の20の2 (電)03・3841・6531。月、火曜は午前11時30分~午後3時(ラストオーダー午後2時30分)のみ、木~日曜はこの時間帯に加えて、午後5時30分~午後8時(ラストオーダー午後7時30分)水曜休。年末は12月30、31日休。

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