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新春インタビュー 奄美が教えてくれるもの(2) 歌手、元ちとせさん
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幹線道路から海岸へ抜ける道沿いに、名もなきジャングルが広がる。クワズイモが大きな葉を広げ、パパイヤの樹が実をつけていた=鹿児島県大島郡龍郷町(奄美大島、別府亮さん撮影) ≪おおらかで、美しい言葉たち≫
「とうとぅがなし」という島口(しまぐち)(方言)が奄美にはあります。
感謝を表したり、神様に祈るような言葉です。子供のころ、おなかが痛いと「とうとぅがなーし」って、おじいちゃん、おばあちゃんが言いながら、おなかをさすってくれました。
仏壇に手を合わせたり、間もなく台風が来るというとき「被害が出ませんように」と祈ったり、それから飲み過ぎた人にも「とうとぅがなし」。今でも言います。この一つの言葉が、いろんな場面で思いを伝えてくれる。美しくて、懐の深い言葉が、奄美にはあります。
そんな島特有の「言葉」は、のんびりした調子。島の人同士が話すときの「言葉の旋律」に、心が安らぎます。
かといって、奄美の言葉や会話には物事の「芯」を突く、ストレートな強さもあります。居酒屋で島の人同士の会話を聞くと、「きつい」と感じる方がいるかもしれません。
でも、強い言葉を口にしても相手に思いを受け取ってもらえる、そんな島の人同士の信頼感が、酒場の軽口には表れているような気がします。
幼いころから私のすぐそばには島唄がありました。島唄は島の誰かの人生の苦や楽を唄にしています。だからでしょうか。島唄のなかには、人を思う気持ちや、方言のなかにあるきれいな言葉が詰まっていて、唄いながら感動することがあります。どの唄も口伝いに、代々歌い継がれてきたものです。
たとえば感謝の気持ち。奄美は一つ一つの集落を峠が隔てていて、昔は隣の集落に行くにも本当に遠かった。もちろん車なんてない。「この峠を越えて、来てくれた人の思いほど、本当の思いはない」と島唄で歌い継がれているのは、そんな骨折りへの感謝の気持ちがあったからです。「人と人の縁は不思議だけれど、これはきっと神様が引き合わせてくれた」というような唄もあります。感謝や人を尊ぶ心…そうした気持ちが言葉と結びついて生まれた島唄の歌詞は、本当に美しいな、って思います。
すたれた、とは言いますが、私の中では島の言葉が生きています。若い人も宴(うたげ)のときに「とうとぅがなし」をコントみたいにおどけて言ってみたりします。そうやって人が集まって宴があるところに、言葉は生きて、伝わっていくのだと思います。(取材・構成:高橋天地(たかくに)、津川綾子/撮影:フォトグラファー 別府亮/SANKEI EXPRESS)
≪90歳おば FMで島文化発信≫
「うがみんしょーら」(こんにちは)。ラジオから元気に響く島口(方言)。奄美大島初のコミュニティーFM局として2007年に開局した「あまみエフエム ディ!ウェイヴ」は、“おば世代”から若者へ、島言葉や郷土文化を橋渡しする懸け橋のようなラジオ局だ。
人気コーナー「ぃえぃとかいわのOVA(おば)」は90歳の中原フデ子さんから、35歳の渡陽子さんが島口を習う。例えば流行語の「いつやるの、今でしょ」は「いつしゅり、なま、すらんば」となる。
「おばと話すと懐かしい幸せな気持ちになる」と渡さん。「おば、かわいい」とフデ子さんは若者に人気だという。ほか、鶏飯(けいはん)、塩豚(しおぶた)など奄美の家庭料理のレシピなどを伝える料理コーナー「あらゆるじゅうりよ」も放送している。
島特有の文化発信にこだわるのは「もう一度、島文化のアイデンティティーを取り戻したかったから」と、「ディ!ウェイヴ」を運営するNPO法人ディの麓憲吾代表理事(42)。「本土復帰後しばらくは内地(本土)を意識し、島特有の文化には目が向かなかった」。しかし、かつて唄者(うたしゃ)だった元ちとせがスターになると、島の人々は改めて奄美の文化にも目を向けるようになったという。麓さんは「島の文化を面白く、かっこよくアレンジしながら、次世代につなげたい」と語る。(高橋天地(たかくに)、津川綾子/撮影:フォトグラファー 別府亮/SANKEI EXPRESS)