≪どれだけ上手に違和感入れるか≫
SANKEI EXPRESSに対談企画「だから人間は滅びない」を不定期連載中の作家、天童荒太さん(53)が、自身初となる絵本『どーした どーした』を1月6日に刊行する。タッグを組むのは、日本を代表する絵本作家の一人、荒井良二さん(57)。意外な組み合わせ? でも、実は息ぴったり。そんなコンビだからこそ生まれた、未来へと届けたい大切な物語だ。
児童虐待をテーマに
〈主人公は小学3年生のゼン。『どーした』が口癖の元気のいい少年だ。あんまり「どーした」を連発するので、嫌がられることも。でも、ゼンは全然気にしない。家族はもちろん、風船を手放してしまった女の子にも、ベンチで泣いている女の人にも、知らない人にも平気で「どーした」。そんなある日、ゼンは登校途中に同じ年頃の少年・ミツに出会う。ミツの顔には、ハロウィーンのメークみたいな赤と青の色…もちろん、ゼンは聞く。「どーした?」〉
――執筆のきっかけを教えてください
天童荒太さん(以下天童) 20代の頃からいつか絵本を作りたいと思っていました。『歓喜の仔』を書いてるとき、アイラブユーに代わる言葉を探していて、「どーした」という言葉がふっと降りてきて。僕自身、考えたら一番ほしいのは「どーした」という言葉でした。打算や掛け値なく、「どーした」と聞いてくれる人がいっぱいいたら、それだけで幸せなんじゃないか。そう思ったとき、絵本を作ることができるという直感を得たんです。
――「どーした」の一言が、結果的に人を幸せにする
天童 ゼンは困っている1人の子のために声をかけただけで、自分自身ではエライことをしたなんて少しも思っていない。しつこいと、うざいし、こっけいにもなる。「どーした」を聞きまくるゼンの勢いが、ワーッと周りに広がって、奇跡的な結果につながっていく。そんな物語を作るには、ある種の陽気さを持った絵が必要です。明るくのびのびと、美しい色彩と、深く世界をとらえる感覚で読者に届けられる人…長年自分自身もファンだった荒井良二さんしかいないと思った。
――明るくのびやかな画風の荒井さんですが、今回の作品には、現実感がふと顔をのぞかせます
荒井良二さん(以下荒井) 今回ののテーマは、児童虐待というシリアスなテーマです。通常の絵本にはない違和感を与えることで、今回の作品のテーマに結びつくのではないかと意識して、ちょこちょことリアリティーを挟んでいきました。普通の絵本は「ページを開くと、非日常的な物語が展開する」という常識がありますが、そんな中に生活感というか、現実感を加味することで、「あれ、ちょっと今回は普通の絵本と違うぞ」と違和感を持つことになる。
天童 僕が小説を書くときに意識するのも「どれだけ上手に違和感を入れるか」ということ。「ん?」とページをめくる手が止まることで、心にひっかかっていく。
絵本は「遊び場」
――荒井さんは、最初に天童さんからお話が来た時、どう思いましたか
荒井 驚きましたけど、僕も天童さんのファンだったから、うれしかった。僕は絵本以外のジャンルの人と組むのが好きなんです。絵本って、みんなが立ち寄れる、空き地や公園のような遊び場だと思っている。いろんな人たちがそこに来て、遊んでいく。
天童 そう、まさに「遊び場」なんですよね。僕自身も大学のときから絵本が好きだったんですが、それは「なんでもあり」だから。表現がすごく自由。大人が全力を挙げて、遊んでいる感じがあって、いろんな面白さの根っこが詰まっている気がするんです。
荒井 「子供には難しい」みたいなことを言われたりもするんですけれど、大人が勝手に決めるなよと(笑)。絵本というのは、答えを出すものではない。簡単に言うと、「問いかけ」です。オレはこう思うけれど、君はどう?って。そこで「こう思う」って返ってきたら、それだけでもう正解。
言い過ぎないように
――天童さんにとっては、初の絵本。特に意識された点はありますか
天童 文章で説明しすぎずに2つか3つの意味を含ませる、という所でしょうか。荒井さんの絵そのものに力があるので、語り過ぎないようにする。想像力を働かせる余地を残さないと。最初は多めに文章を書きますが、絵が出来上がったら、過剰な部分を削っていく。逆に、絵でここまで描いてもらっているからこそ、読み手によって受け取り方が変わる多義的な言葉を要所要所で付け足す。そのキャッチボールが、どんどん作品を飛躍させていく。
シナリオ風の書き方ですが、僕自身かつて芝居や映画の脚本などいろいろなことをやってきた。だからこそ、今回の絵本を作ることができたのかもしれません。テーマや荒井さん、本全体をデザインしてくれた鈴木成一さんとの出会いなど、全てのタイミングが奇跡的にぴったり合ったなぁって感じてます。
――荒井さんはいかがでしたか
荒井 実は、僕は行間を膨らませていく作業の方がどちらかというと得意なんです。小学校の頃から、クラスの女の子が書いたマンガを、「ここのコマ描いてよ」なんてやっていた(笑)。枠を与えられた方が自由度が高くなる。先に何かがあって、そこを広げていくのが好き。(構成・文:塩塚夢/撮影:大山実/SANKEI EXPRESS)
「どーした どーした」(天童荒太・文、荒井良二・絵/集英社、1575円)