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服飾、アート…多様性感じる「青参道」(5-5) ファッションは「飾る」のではなく人生を「彩る」

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服飾、アート…多様性感じる「青参道」(5-5) ファッションは「飾る」のではなく人生を「彩る」

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骨董通り沿いの男性向けショップ「DECOdeBONAIR」でジャケットを試着する天童荒太(てんどう・あらた)さん。「服は買う気で見ないとわからないことがあるから」。左はバイヤーの上尾智昭さん=東京都渋谷区(宮崎裕士撮影)  【だから人間は滅びない-天童荒太、つなげる現場へ-】

 ≪対談を終えて 天童荒太≫

 「衣食住」のなかの「衣」。本来、人間にとって不可欠なものであるはずなのに、ファッションは一般的には「つなぐ、つながる」という文脈では見られてきませんでした。ファッション・アート全般を扱っているHPF(「アッシュ・ペー・フランス」)の村松(孝尚)さんとお会いすることで、今後の社会の広がりを求める道すじのヒントを得られるのではないか。そんな思いから始まった今回の対談でしたが、本当に楽しいものでした。

 村松さんは、自分を隠すことがない率直な人。自分の全てを開いてくれる。そうすると、こちらも自分を開いて全力で考えなければならない。自分が考えている以上のところで、全神経を総動員させて向き合う。そういうプレッシャーって、実はすごく大事だったりします。

 この人に全力でぶつかれば応えてくれる。村松さんは、相手にそういう信頼を抱かせてくれる人なのだと思います。

 もっと自分を開いて

 対談の中で、「人に影響を受けることを恐れない」というキーワードが出てきましたが、僕も含めたこれからの生き方のヒントになるかもしれません。

 現在に生きるわれわれ、特に若い人は、人から影響を受けることを恐れてしまっているようにみえます。他者から何も言われたくないと、背伸びをすることや影響を受けることを放棄して、自分たちの中にあるものでよしとしてしまう。人を傷つけたり傷つけられるのをすごく恐れていて、影響を受けることに臆病になっている。そのことが世界、社会の分割感、孤立感とリンクしている。

 人に出会って、影響を受けることを恐れないというのは、すごく人生を豊かにします。つながりは、もっと広がっていく。それは、この連載のテーマにもつながることです。これまで、人に会うことは大事だと思っていたけれど、今回村松さんとお話することで、そこから一歩踏み込んで、「影響を受け、それを喜ぼうよ」ということを見いだすことができた。大変うれしいことです。

 ファッションに苦手意識を持っている人は多いと思います。でも、ファッションとは「飾る」のではなくて「彩る」ことなのではないか。それを意識すると、生き方が変わってくるように思います。ファッションって、生活自体には不要な、いわば嗜好(しこう)品のような扱いをされてきた面があります。そこにお金や時間を費やすのはもったいない、と思って、でも自分の人生や生活を彩ること以上の何かなんて、そうそうあるはずがないんで、結局もっと無駄なことをしてしまったりする。

 これは自戒を込めての感想ですが、われわれは、もっと人生を彩ることを自分自身に対して許してもいいのではないでしょうか。値段の高いものを持つとかいうことではなく、ピンバッジ一つでもよくて、それをしまっておかず身に着けて人に会いにゆく。それで話が弾んで互いの世界が広がるきっかけになるかもしれない。人生を、生活を彩ることに対して、もっと自分を開いていく。それが、人と会うということの豊かさにもつながっていく。

 男性も歩み寄ろう

 今、ファッションは「自分を認めてほしい」という手段というイメージが強くなってしまっているけれど、本来は人と会い、影響されるということだと思います。影響を受け、与えることがファッション。そして、それこそが自分たちの世界を大きく変化させることになりうる。ファッションは、おしゃれ好きの女の子のためだけにあるのではなくて、人と人をつなぐ大事な概念の一つなんです。

 課題は、社会…特に自分を含めた一般の男性と、ファッションとの間にまだ大きな隔たりがあること。それは、やっぱり双方に問題があるんですね。双方が歩み寄ることで、理解が進む。その過程で、村松さんがおっしゃるような、もっと人を尊重し、人に対してやさしくなれる社会へ近づいてゆけるんじゃないでしょうか。(取材・構成:塩塚夢/撮影:宮崎裕士/SANKEI EXPRESS

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