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【鋤田正義 meets 黒木渚】ライブの一瞬 バッサリ斬られて
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バンド「黒木渚」のギターボーカル、黒木渚(右、鋤田正義さん撮影、提供写真) 写真家、鋤田正義さんと初のフォトセッションを終え、本業であるミュージシャンとしての活動に精を出していたある日、鋤田さんから連絡があった。
「ライブを撮りに行ってもいいですか?」
突然のことで驚いたが、瞬時にそれは喜びへと変わった。私にとってこの申し出は「あなたの本当の姿を撮りに行ってもいいですか?」というふうに解釈されたからだ。
私たちの出会いとなったフォトセッションはスタジオ撮影だったため、モデル経験の浅い私には新境地であり挑戦でもあった。そこにはステージも照明も観客もない。私が普段身を置いている表現の分野とはかけ離れた場所だ。撮影後に送られてきた写真には、どれも自分の知らない自分の顔が映っていた。だからこそ面白いと感じたし、もちろん難しさもある。被写体としての経験によって、新しい自分を発見したのだった。
そして今回は鋤田さんがライブハウスにやって来る! そもそも、鋤田さんが行動派の写真家であることは私も知っていた。過去の作品を見ると、街中の看板、回転ずし屋、ペットボトル、地下鉄、楽屋など、外の世界を歩き回らなければ撮れないものがたくさん映っている。何より初めて鋤田さんに会ったときに抱いた「この人はカメラ好きの少年のままだ」という強烈な印象から、行動派だというのを予感していたというのもある。レンズの向こうに世界を見る少年は、その純粋な好奇心からどこまでも被写体を追いかけていくのだろう。
私にとってステージは特別な場所だ。歌詞には物語が凝縮されていて、そのひとつひとつを再現していく。音楽家なので、歌詞とメロディーとリズムで表現することの比重が大きいのは当たり前なのかもしれないが、照明・表情・動作、それから息を吸う音さえも大切な要素だ。物語の主人公に憑依(ひょうい)した私はそれらの要素を組み合わせ、物語を具現化する作業をしているのだと思う。不思議なのは、私は何者にでもなるくせに、変化する私こそが紛れもない黒木渚だと毎回思い知らされる点だ。だからライブは面白い。そして鋤田さんがカメラに向ける情熱と同じくらい無心になれるものが私にあるとすれば、それはライブだ。
ライトが射(さ)し、演奏が始まればもう最後まで走り抜くしかない。本番直前まで「鋤田さんが来ている」ということを意識していたのに、それも忘れて夢中で歌い、ステージの上を動き回った。全てが終わってしまった後で、「せっかく撮影に来てくれたのに、あんなに激しく動き回って大丈夫なものだろうか?」と心配になった。けれど、後日鋤田さんから送られてきた写真に私は息をのんだ。
ライブのほんの一瞬を切り取った一枚の写真。そこに本当の私が映っていた。振り乱れた髪で顔は隠れているし、鮮やかにステージを照らす照明は白と黒のコントラストのみになっている。そして何より写真は音がない。それなのに、表情も色彩も音も全てがそこに映っていると思った。
してやられたり。愉快な悔しさがあった。ライブハウスという私の本拠地にいながら、鋤田さんの刀でバッサリと斬られたような感じだ。そして、その切り口の見事さに私が痛快感を得るという謎の現象。
出番が終わって楽屋に来てくれたとき、鋤田さんは本当に無邪気な表情で「楽しかった!」と言ってくれた。だけど私が純粋なカメラ好き少年だと思っていたあの人は、恐ろしいほどよく切れる刀を操る侍でもあったみたいだ。(文:バンド「黒木渚」のギターボーカル 黒木渚/撮影:写真家 鋤田正義/SANKEI EXPRESS)
大阪・心斎橋BIGSTEP(2014年2月2日まで)
2014年6月1日(日)渋谷公会堂ワンマンライブ